「レイコの青春」 31~33
「駄目、レイコ。
わたしったら、今、泣いているんだから、顔は見ないで。
何が有ったって、今まで私は泣かずに我慢をしてきた。
強いだけが取り柄の美千子がだもの、
それなのに、なぜか今日だけはどうしても涙が止まんない。
ううん、そうじゃない。泣いてなんかいないわよ。
濡れているのは、雨粒のせい。」
「そう・・・・
美千子の涙は、小さな雨の粒なんだ。
私は駄目。私は泣きむしすぎるから、ほら・・・・
ずっと大粒のまま。」
「・・・・」
「来てくれてありがとう、美千子。
きっと喜んでいると思うわ、園長先生も。」
「ごめんね、レイコ。
まだまだ私には、時間がかかりそう。
みんなのところへ、顔を出す勇気が全然、湧いてこないのよ。
ぽっかり空いてしまった心の穴は、まだ塞がってくれる気配がないの。
何なんだろう、この空しさって・・・・
綾乃には、申しわけない母親のままだった。
大好きだった園長先生にも、何も言えないうちに逝ってしまった。
それなのに、わたしの心は、おまだに固まったままなのよ。
何がわだかまっているんだろう・・・・
それがいまだに解らない。
悔しいよ、レイコ・・・
あれから、なにひとつ、何も解決できていない自分がいるの。
動き出すことが出来ずに、泣いているだけの自分がいるの。
悶々としているだけの私自身が
今も一番、悔しい。」
美千子が乱暴に、こぶしで目じりをこすりあげます。
レイコが肩越しに、綺麗に折りたたんだハンカチを手渡しました。
「いいわよ、それをあんたの涙でべちゃべちゃにしても。
使って頂戴。遠慮はしないでね。
あんたの大好きな、ハローキティちゃんのハンカチです。」
「こんなときに・・・なに馬鹿なことを言ってんのさ。
レイコの意地悪。」
作品名:「レイコの青春」 31~33 作家名:落合順平