「レイコの青春」 31~33
菩提寺の参道周辺から、市内へ大きくせりだした
丘陵地の急傾斜が、右手方向だけがなだらかな斜面に変わっていきます。
緩斜面の中間部には動物園が広がっていて、さらに園内の坂道を登りきれば
その先には、(幼児向けの)遊園地がつくられています。
谷あいにある住宅街を挟んで、
西側には植物公園や市内を見降ろす高台への遊歩道なども整備されています。
この一帯は、幼い頃からのレイコや幸子、美千子たちが
大好きだった遊び場です。
参道を入口まで戻ると、道が上下に分かれます。
下れば、山の手通りに出られます。
登りとなる動物園側の道路には、苔を含んだ大きな石が、
ほぼ一面に敷き詰められています。
動物園の内部には、中央をまっすぐにのぼっていくメインの通りとは別に
周遊用の細い順路が、ここから左右に分かれて作られています。
レイコは躊躇うことなく、右へ行く東端に沿って
進む遊歩道を選びました。
ここからは、遊歩道を登るにつれて、木々に隠れていた
桐生の市街地が、すこしずつ眼下にその全体を見せ始めます。
10分ほど歩いていくと、やがて菩提寺本堂を真下に
見下ろせる場所へ到着をしました。
前方の斜面には、段々に作られた墓地も見えてきました。
傾斜の広い範囲に造られている墓地と、
動物園を隔てている金網のフェンスが、この一角で突然に途絶えます。
自由に出入りができるために(配慮された)
ゲートが見えてきました。
ここの高見に立てば丘陵地の西端へ、
沈んでいく夕日の姿を、いつも綺麗に眺めることができました。
レイコや美千子、幸子たちが、もっとも好んで立った場所でした。
小学校へ入る前からから共有をしてきた、秘密の場所のひとつです。
やっぱり、居た…
雨空が、また急な動きをみせはじめます。
細かい雨を落としかけてくる、暗い空を見上げたレイコが、
勢いよく拡げた傘を、半分だけ、そっと美千子の頭上へ差し出しました。
そのまま、静かに美千子の背中へ寄り添います。
作品名:「レイコの青春」 31~33 作家名:落合順平