「レイコの青春」 31~33
両毛線・桐生駅から出発をして、市街の西北部を辿って
市内循環バスの車庫が有る天神町までの約3キロの山沿いの道が
山の手通りと呼ばれています。
市立高校と工業高校が沿線に有り、また群馬大学・工学部へも
至るため、おおくの学生たちがよく歩く生活道路のひとつです。
また、この山の手通りからは、
遊園地や動物園へとつながる坂道などもはじまります。
その坂道がはじまるあたりの、付け根にあたる一角に周囲を
うっそうとした杜に囲まれた、園長先生の菩提寺が建っています。
午後に入ると、
細かい雨が時折降るようになってきました。
足元をかすかに濡らす雨の中、本堂へ向かいかけたレイコが
ふとした気配に気がついて、思わず立ち停まります。
美千子の姿を見かけたような気がしたのです。
記帳所を振りかえります。
そこへ、美千子の横顔があったような気がしたためです。
受付に並ぶ、隣組の人たちの姿のほかには、
喪服姿の初老の婦人と、連れの男性の二人しか見えません。
見間違いだったのかしら・・・と呟きながら、立ち去ろうとした時に、
参道をひとりだけ反対方向へ歩く、細い背中がまた見えました。
レイコの足が、記帳所へと向かいます。
記帳する弔問客たちの間から、そっと顔をのぞかせて
署名を順に確認をしてみました。、ありました。
見覚えのある流れるような書体は、
まぎれもなく同級生の美千子の署名です。
来てくれたんだ・・・安堵の思いがレイコの胸の中に広がりかけた瞬間、
また激しい音を立てて、大きな雨粒が落ちてきました。
あわてて本堂に駆け込んだレイコが
軒下で、袖にとりついた雨粒を片手で払い落します。
上空を見上げたレイコの視線が、
寺院を取り囲む裏山のあたりまでおりてきました。
レイコの視線が、さらに動物園へ登っていく坂道のあたりまで
何気なく流れていきます。
まさか・・・直感を覚えたレイコが、傘を広げると
再び記帳所のほうへ歩き始めました。
作品名:「レイコの青春」 31~33 作家名:落合順平