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「レイコの青春」 31~33

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 ずぶぬれになった傘の水滴をレイコが、クルクルと振り払います。
ゆっくりと傘を閉じながら、その上空を見上げました。
あいかわらずの雨雲が、風に追われて西から東へ急いで
流れていくのが見えます。
いつもの、夕日が落ちる丘陵地の方向へ視線を向けたレイコが、
何かを見つけて、小さな歓声をあげました。


 「見て、美千子。
 園長先生の、天使の階段!」


 「え?。」

 レイコが指をさします。
そこだけ、雨雲が、薄くなりかけていました。
周囲が黄金色に輝いた雲の隙間から、もうまもなく落陽まじかの、
淡く黄色い陽の光が差し込んできました。



 雨雲に覆われたまま、まだうす暗い市内地へ向かって
光の帯が、ひと筋の道のように伸びてきました。
美千子も思わず、小さく歓声をあげました。



 「・・・ありがとうね、レイコ。
 毎朝のメッセージ、とても心強かった。
 同じ時間にやって来て、いつも同じ場所に立ち止まって、
 いつもと同じように、私の家を見降ろしてくれていたわよね。
 そのことに、随分経ってからやっと気がついたときは、
 私は、涙が出るほど嬉しかった。」

 「あれはたまたまの、通り道だわ」



 「嘘おっしゃい、レイコ。
 私は生まれも育ちもあんたと同じ、ここの下町の育ちです。
 あんたが通勤で乗るのは、天満宮のバス停でしょう。
 山の手通りの南にある、私の家を見降ろすためには、
 バス停を二つ以上も歩く必要があるし、
 そのうえ、反対周りのバスに乗って遠回りをしてから
 会社へ行くはずになるわ。
 しかも、憎たらしいほど正確に、
 毎日決まった時間に同じ場所に立つなんて・・・
 そんなことが出来るのは、あんたくらいだわよ、
 そんな、おせっかいができるのも。」


 「ごめんね・・・・やっぱり迷惑だったかしら。」


 「ううん、そんなことはないさ、レイコ。
 いままでで一番嬉しい、あんたからの迷惑だ。
 あんたと友達でいられたことを、私はつくづく感謝をしたわ。
 毎朝、毎朝、同じ時間を歩いてくれたんだもの・・・
 あんたの気持ちは、しっかりと受け止めた。
 でもさァ・・・レイコ。
 まだ、まだ駄目なんだよ、あたしは。
 心の整理がつかないままで、
 ぐずぐずしているだけの、意気地無しのままなんだ。
 情けなくてごめんねぇ、こんな友達で」


 「何言ってんのさ。
 もう園長先生には届いているわよ、あんたの気持。
 幸子や、靖子もきっと解って居ると思う。
 でもさぁ・・・
 どうしても、なにがあっても乗り越えていきたいよね、私たち。
 あんたの綾乃ちゃんのためにも、
 わたしたちの大好きな園長先生のためにも。
 みんなが、認可保育園を心から待っているんだもの、
 停まってなんか、いられないわよね。」


 「・・うん。」


(34)へつづく