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空の子供

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 嫌な 嫌な
嫌な 嫌な 嫌な予感。

太陽の子、嫌な予感感じて
星の子、弟思い、嫌な予感殺しちゃう
雲の子、それ見て欠伸。

でも本当の嫌な予感は
太陽の子殺す月の子
月の子、血を浴びて、にこり笑い
雲の子やっぱり欠伸

 昔から、口伝で伝えられてきているこの歌を、私は気づけば口ずさんでいる。
 どういう意味なのか、知らなくても。
 知らないまま一生を終えるのが普通なんだろう。
 それでも、私は知ってしまったのだ。彼らに会ってしまったのだ。

空の子に。


 まるで、それが因果のように。


*
 前の授業の興奮が残っているのか、教室はざわめいていた。
 「あそこで炎が出てくるなんて!」「流石猪俣先生だよなー」「私たちもあんな魔法使いになりたいね」…そんな言葉が聞こえてくる。うん、私も同感だ。
 先ほどの授業は、猪俣(いのまた)先生の、陣形の法則。実際に炎が出てきたのは、私たちには予想外だったので、私たちは拍手喝采だった。猪俣先生なりのサービスだ。炎を出した後、先生は内緒ね、と苦笑していた。
 私は授業のことを思い出していた、そんな時に。

 「日野夕子(ひのゆうこ)」

 私の名前が呼ばれた。
 厳かそうに聞こえるのは心理的影響だろう。
 何せ相手は、私の学校の担任の磯部先生。
 皆担任というと、他のクラスは明るいのに、磯部先生のクラスだけは、じめじめとして、暗くて、そしていつでも緊迫する。
 そんな先生に、帰りがけ呼び止められて言われた言葉に耳を疑った。

 「君は落第だ」

 最初は、口が勝手に笑みを作っていたが、その真剣で鋭利な眼差しに、それが冗談でないと悟った私は、口をあんぐりさせてから、まるで餌に飛びつく狼のように、何でですか!?と問いかかった。
 磯部先生は少しだけ落胆しながら、説明しだす。
 「君は、校長室を覗いたそうだね」
「はい、掃除当番でしたので」
「そして、見つけてしまったようだね」
「何を、ですか?」
 私がとっさに思い浮かんだのは、不自然な校長の頭にいつも乗ってる、ヅラ。
 そういえば、ヅラが落ちていたから、机の上においてあげたな、と思い出した。

 ヅラ。

 ヅラ。

 ヅラが落第の理由!?

 そんなショックを受けている、私に磯部先生は、更に追い打ちをかける。

 「賢者の石。君は賢者の石を見つけてしまった」
「は?」
「賢者の石は偽造される恐れがあるから、大魔法使いでない限り見せてはいけないのだよ。だから誰にも手の届かない場所に隠すんだが…君は見つけてしまったようだね、あれを。机の上に置いてあったのを校長が見たらしい」


 そんな、

 そんな、まさか。

 ヅラの中に賢者の石が?!

 「あれはヅラでしたよ?! ヅラにあるんですか?!」
「賢者の石で出来たヅラなのだよ。よって、君はこの学校の施設を使って偽造する恐れがあるから、落第だ。以上、質問は無いな。今日中に荷物を片付けておくように。君の今後の人生に幸あれ」
 磯部先生は落胆した表情を嘘のように無表情に変えて、事務的にそう言って、さっさと私以外居ない教室を出てってしまった。あの暗い空気が、少し晴れやかに見えたのは気のせいだろうか。

 そんな。

 そんな。

 小さな頃から大魔法使いを目指してこれまで頑張っていたのに、掃除で、掃除一つで落第だなんて。

 怒りのあまり、私は黒板にチョークで校長のヅラに秘密ありと大きく書いてやった。
 指紋を残さないように書いたので、証拠は残ってはいないだろう。それでも、犯人は私だと特定出来るかも知れないけれど、もう無関係者の私には手出しは出来ないだろう。

 少しだけすっきりしつつも、気分はやっぱり、そんな浮かれてられない。
 何せ、落第。十七にして、落第。
 あそこの学校は有名で大きな学校だったから、あそこの学校の落第生なんて、どこの学校も受け付けてくれないだろう。いや、試験を受けるのですら怖い気がする。
 絶対拒否されそうな、変な自信が芽生える。

 「どうすればいいってのよ…」

 今更、よその職業になんてつきたくない、大じゃなくていいから魔法使いがいい。
 まだ学びたいことは山ほどあった。嫌いな教科も今では愛しい。
 居眠りした授業もあったし、楽しく聞けた授業もあった。それらが、一切もうこれから無い生活を送ることになるのか。魔法について、もう学べないのだろうか。
 ぼんやりと歩き慣れた帰り道を歩く。誰も居ない路地になってから、私の目から冷たいものが溢れた。
こぼれたって、知らない。拭わない。零れてきた理由なんて、言いたくもない。

 人生が真っ暗な気がしてきた。
 道がなくなった、そんな感覚。歩いてきた道も、歩いていた道も、先の道もなくなって、落ちていくような錯覚がした。誰か私に、救いの手を教えて? 誰か、私に将来の行方を教えて?

 丁度、その時だった。

 ドォオオオオン!

 ――ぎゃおおおおおおおおおおおおお!!

 そんな音と、耳を劈く鳴き声が聞こえた、かと思えば、腹に重い振動と少し飛び上がった体。一体どうしたんだ、地震だろうか?と思ったら、今まで居なかった視界の中に、金にも銀にも見える竜が、空からふってきたのか、落ちていた。

 呆然とした。

 そして、次の瞬間には、覚えのない感情が胸に秘めていた。
 何? 何、これ? 何で、こんなにドキドキしてるの? 恋したみたい! でも、それは絶対に違うんだってことは、何となく判った。全身が、鳥肌が立つ。
 これって、知ってる、感動っていうんだ。
 だって、本でしか見たことの無い大きな大きな竜が、今、目の前に居る! それだけで感動の理由にならない?!

 「あ、あああああ、あああああ」

 言葉にならなかった。
 足が震えた。講義で習った、竜にも人に優しいのは稀にいるだけで、あとは凶暴だと。
 ――まずい、殺されるかもしれない。感動してる場合じゃなかった。逃げなきゃ。
 私はまだこれから魔法を習うところで、まだ何も出来ないのだから、抵抗なんて竜相手にできるわけない。それでも、動けなくて。足がまるで、地面に刺さったように固定されていて。感動で動けないのか、恐怖で動けないのか。

 竜の目がうっすらと開く。
 金か銀か判らない色の鱗が、動く。中には、アメジストよりも紫らしい綺麗な純色の紫があった。
 その眼差しはどこか、人に近いものを感じて、その瞬間から私は彼が凶暴でないことを悟った。
 そしてよく見れば、首輪と足枷がついている。
 ぼろぼろで、刮目すると、腹部には大きな切り傷がある。尋常じゃない。驚いちゃっても、しょうがないでしょ?

 「な…だ、大丈夫?! ええと、言葉は通じるかな…」
“是……”

 何ていえば良いんだろう。脳に直接呼びかけるような感覚で、声のようなものが聞こえた。
 でも、何語かは判らない。

 「ええと、何語? ごめん、判らない…」

 そう言うと、一回、竜が瞬きをしてから、また脳に直接声のようなものが届いた。

 「…コレ、で、判、る?」
「う、うん!」
 今度は彼の口から言葉が紡がれ、耳に人語…世界共通語が入った。
作品名:空の子供 作家名:かぎのえ