「レイコの青春」 28~30
綾乃ちゃんを亡くした美千子は、一切口をつぐんだままでした。
葬儀を終えて一週間がたっても、長男の翔太君も美千子も
保育園へ顔を見せません。
心配をしたレイコが自宅を訪ねたときにも、黙って翔太君を抱き抱えたまま
さびしく笑うばかりで、ほとんど会話はありません。
それ以上踏み込めないレイコは、もどかしさを抑えたまま、目を伏せて
ただコーヒーに口を付けるばかりです。
園長先生の症状は、行きつ戻りつを繰りかえしています。
幸子が担当医を訪ねた時にも、ひとつとして楽観的な言葉は出ません。
「万一の覚悟だけは、今から整えておいてください」という一言が、
有無を言わせずに、幸子を押しつぶしてしまいます。
そんな中、不幸にしてなでしこ保育園では、
二つ目となる保育の事故が発生してしまいました。
担当の保母さんがふと目を離した瞬間に、1歳半になる男子園児が、
自宅から持ってきたと思われるビー玉を、誤飲してしまいます。
あわてて処置をしたものの、吐き出させることができずに
再び救急車が呼ばれました。
(多少なりとも事態が)鎮静化を見せ始めた、
つい、その矢先での保育事故の発生です。
「またか」と言う声と共に、
再び避難と抗議の声が燃え上がります。
保育の現場では常に、怪我や事故などは紙一重で存在をします。
はっとしたり、ドキっとするような事故寸前ともいえる出来事は、
実は日常茶飯事のことです。
ささいな注意力の不足や、ふとした気の緩みなどが
重大な保育事故に至ってしまう事があります。
未然にこうした事故が防げているのは、日ごろから研磨された
保母さんたちの、卓越した知識と、いくつもの経験の積み重ねによって
かろうじて支えられているからにほかなりません。
作品名:「レイコの青春」 28~30 作家名:落合順平