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「レイコの青春」 28~30

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 常に予測不能の行動をする子供たちの
日ごろの安全を守るためには、専門的な知識もさることながら、
長年にわたる保育現場での、経験の量が物を言います。
園長先生と言う、絶対的な優れた指導者を失ったなでしこ保育園では、
極度に緊張した空気だけが、連日続いています。
懸命に頑張り続けている保母さんたちの間でも、ふとしたことで
その緊張の糸が、切れようとしています。


 管轄をする児童福祉課から、幸子のもとへ、
前後策を協議する場が提案されました。



 認可保育園の建設運動も完全にストップをしたまま、
再開のめどが立たなくなっています。
在園児の中からも、辞める子供が続出しました。
とくに他の保育園へ移る、昼間の園児たちの退園が目立ちました。
夜間に利用しているお母さんたちの間から必死の説得がはじまりましたが、
逆に昼間のお母さんたちとの間で、あらたな不協和音を
生みだしてしまいました。


 前後策を協議するために、幸子とレイコ、
双子の出産を無事に終えた靖子が、児童福祉課の課長たちを訪ねたのは、
(大事にはいたらなかった)誤飲事故から一週間ほどの後のことです。


 会議室では、渋い表情の福祉課長と、
初老の係長が、テーブルをはさんで真正面に座りました。
幸子から一通りの説明が終わったところで、課長が重い口をひらきます。


 「県の福祉課でも、事態を大変に憂慮しています。
 認可保育園の建設の件でも、当事者の一人でもある事務局長の
 不測の事故で、運営にも混乱が生じていることを知り、
 今のところ、たいへんな懸念をしめしています。
 保育園の現場でも、だいぶ混乱が見られるようですね」



 「それらの責任を問われるべきは、そこにいる、若い人たちではなく
 すべては、私にあるのです。」

 声とともに、陽子に付き添われて
会議室に姿をあらわしたのは、少しやつれた園長先生です。
陽子の介添えを受けていながらも、精いっぱいに歩く様子に、幸子をはじめ、
居合わせた全員が一斉に立ち上がります。
園長先生が全体を一通り静かに見回してから、
笑顔を見せて「お座りください」と目で促します。



 「大丈夫です。
 少しだけの時間ならと言うことで、
 担当医の許可も、ちゃんと頂いてまいりました。
 わざわざ、有給休暇まで取っていただいた陽子さんに
 病院にまで迎えに来てもらったのは・・・・
 どうしても、はっきりさせておかなければならない問題が
 私自身の中に、あるからです。」



 園長先生が、一呼吸を置いて、
また会議室にいる全員の顔をゆっくりと見回します。


(31)へつづく