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ケイタ 『@_aki_ 今三階に移動してきた。友達と合流したよ』
どきどきしながらそんなリプライを送信した。
「これで相手がどうでるかよね。相手も会いたいって思ってるならいいんだけど」
「それはどうかな…」
「弱気にならないの。きっと大丈夫よ」
ううう、と小さく呻いていると携帯が鳴って、開いてみればリプライが来ているとの知らせ。
アキ 『@keita00 私はまだ三階だよー。私の買い物はとっくに済んでるんだけど妹が長くてもう疲れちゃった(笑)』
「まだいるんだ。よし、ちょっと探してみる?」
「え、それはちょっと勇気でない…」
「もー、待ってるだけじゃだめだっての。んじゃそれっぽい人いないか見てくる。高校生くらいの姉妹だよね?」
その声に頷けば、みゆは店を出て行った。
一人になったらやっぱりなんとなくそわそわしちゃって。
(…うぅ、とりあえず服見るの再開しよう…)
せっかく店にいるのに服を見ないのはもったいない。私はひとまずさっき目をつけた服を手にとって眺めたりしつつ、時折ちらりと店の外を見ることにした。
「それらしい人、いなかったわよ? 大型デパートっていっても一周するのに時間かからないし、結構見たけどいなかった」
「ほ、ほんと?」
「ここで嘘言っても意味ないでしょ」
「そ、そりゃそうだけど」
「どういうことかしらね。…とりあえずなんかリプきた?」
「今のところなにも」
リプライはあれ以来止まったままだ。
「ん…こっちが男だって思われてるならどんどんリプするのは怖がられるかも。ちょっと休憩しましょ。疲れたわ」
「そ、そうだね…」
みゆの提案に、私は選んだ服をレジに持って行って買い、そのまま店を出た。店の目の前には長椅子がおいてあって、二人してそこに座って一休み。
ぼんやり店の前を眺めていると、どんどん人行きかう中で、こんな声が聞こえた。、
「おい、まだ買う気かよ」
「いいでしょー。あ、ここの店可愛いんだよね」
一際目立つ声。ふと顔を上げてみれば、女の子が男の子を連れだって歩いていた。
「お兄ちゃん、ここ入るからねっ」
「…もう勝手にしろ…」
お兄ちゃんと呼ばれた男の子はため息交じりに片手に持っていた荷物を持ち直した。どうやら兄妹らしい。
意気揚々とさっきまで私がいた店に入っていく妹さん。意気消沈した様子でそれに着いていくお兄さん。
「――っ!」
気になって眺めていたら、お兄さんと目が合った。思わず固まっていると、そのお兄さんはなんだか恥ずかしそうに苦笑した。
「…どしたの蛍子」
「いや、なんでもない…」
みゆに問いかけられて一瞬視線をはずし、答えてもう一度戻してみればもうお兄さんはこちらを向いていなかった。はしゃいでいる妹さんを諦めの色を浮かべた目で見つめているのが見える。
そして何か思い立ったように、お兄さんが携帯をとりだし、かこかことなにやらメールを打ち始めた。手早く打ってまた携帯を胸ポケットにしまいこむ。
その時だった。
ピピピと聞きなれた着信音。「えっ」と私は携帯を手にとった。
「なに? 相手からリプライ? ――ん? どうしたの」
「ちょ、ちょっと待ってね…」
ふと頭をよぎった考え。ひとまずツイッターを開いて確認する。
アキ 『@keita00 最後の店にするって言われて今すっごく暇してる(涙)妹が騒ぐもんだからさっき店の前に座ってた女の子に見られちゃって恥ずかしかったからすぐ店の中入ったよー』
「「――え?」」
一瞬どういうことかさっぱりわからなくて、私はみゆと同時にそんな声をあげた。
「…待って。どういうこと?」
「――これってつまり――」
一瞬頭をよぎった考えは、言うなれば当たっていた。
「…あそこにいる、男の人が、アキ?」
「…確かめてみるわよ。蛍子、なんかリプ送ってみて。あと探り入れて」
みゆに言われて、おずおずとリプライを作成する。
ケイタ『@_aki_ そうなんだ(笑)大変だな。――もしかして妹さん、小柄でポニーテール?』
みゆの確認をえてから送信した。そして二人してじっと店で肩を落としている男の人を見つめる。私はぎゅっと携帯を握りしめていた。
「…あ、携帯開いた」
みゆが反応した。みゆの言うとおり携帯を開いてなにやら見ている。――そして、一瞬驚いたような顔をしたのが私にも見て取れた。
男の人は文章を打ち始める。
「これでリプ返ってきたら…」
「あの人がアキで確定ね」
「――って、言ってる間にも来たっ」
握りしめた携帯が震えて驚いて携帯を落としそうになった。なんとか落とさずに携帯を開いて、みゆと一緒に覗き込む。
アキ 『@keita00 えっ、なんでわかるの? まさか近くに居る?』
「…確定ね」
「えええええ…」
驚いて声がでない。携帯を握りしめたまま恐る恐る店の方を見れば男の人もなんだかそわそわした様子で――。
不意に、私の視線と男の人の視線が合い、目が合った。
「!」
男の人も驚いた様子で、どうしたらいいのか私はわからなくて――。
お互い携帯を握りしめたまま、少しの間見つめあって。
そして男の人が携帯を顔の高さまで持ち上げて指を差し、私にも指を差してきた。
「もしかして…ケイタ?」
そう口が動いているのが遠目にも見えて――。
私がこくりと頷いて、どうしようかと迷いつつ苦笑して見せれば、
男の人も、同じく困ったように苦笑した。
To be continued?