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雪は穢れて

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「……そうだな。すまない、としか言えない。お前には、色々と世話になったのに……」
「……ろーくん、オレが何の見返りもなく、あの軍に居たと思う?」
 狼が踏み出すと同時に剣を振りかざす、綺麗な薙ぎ方だ、だがしかし、瞬発力の良い兎には交わされる。だがしかし、剣に躊躇いがないところが、流石暗殺者といったところか。
 「オレはね、人間の醜い感情が好きなんだよ! あの軍の内部事情と言ったら!」
 第二撃、狼は今度は突こうとする。だがそれも交わされる、しかし徐々に抹茶を壁に追いつめている。それに抹茶は気づいているのだろうか?
 「だから、ろーくんがオレが側にいるだけで嫌な顔をするのが楽しくてね!」
 壁まで間合いを詰めたのなら、剣は要らない。逃げられないように、横腹を突き刺す。それから、手を離して……片腕のミサイルを。
 抹茶は震える彼女の手に片手を乗せて、人語で喋り、にこりと微笑んだ。
 そこで、気づいた。わざと、自らを追いつめる位置まで自分を誘導させたことに。

 「死ぬって痛い?」

 ダゥンッ!!!

 ……硝煙の臭いが部屋に立ちこめる。二つ、滴が眼からこぼれ落ちた。否、二つに止まらない、それは何滴も落ちていく。
 (こんな時まで、策士だな、くそ兎……)
 もう二度と、憎まれ口は聞けない。もう二度と、生意気な顔は見られない。
 もう二度と、カマトト笑顔を見られない。もう二度と、あの不敵な顔は見られない。

 もう二度と、喧嘩が出来ない。

 (死ぬのは……きっと、痛いと思うよ……だけど、頭にミサイルなら、痛みも感じずに一瞬だろう? 痛みを感じたかったか、それともお前は?)
 (でもお前の苦痛で歪む顔なんて見たくないんだよ。お前は僕の中では、永遠に不敵でいてくれ……それが僕の知ってるお前の姿だ)

 あの悩んでいた日々が幸せのような気がした。千鶴と話し合い、庵と策を練り、抹茶を窘めたり、心の中で怒鳴ったり。……そんな日々が幻のようで。
 人は辛いとき、思い出に縋り付く。
 記憶の中の思い出は、美しいから。
 狼もその一人で、思い出を今思い出し、楽しいことだけを考えて現実逃避をしようとした。
 だが、それは一瞬のぱりぃんとした小さな音で無理だと悟り、頭を抱える。

 「うあぁああああああ!!!」
 狼の叫びと、真雪の叫びが重なった。

 ――真雪の、叫び……?

 目の前の抹茶の死体は何故か突然消えて、そこには弾丸が埋め込まれた壁があって、壁に刺した剣があって。

 真雪の方向に、何故か抹茶が居て、真雪の額のルビーを羽衣の先で壊した。

 「……抹茶?」
「ん? あれ? ろーくん、そんなにオレ、泣けるような人物だったわけ?」
 それはからかいでもなく、本気で意外そうに抹茶は振り返り尋ねる。
 それに怒りはまだ沸かないが、いきなりの奇怪な現象に問いかけると、抹茶がにやにやとまさに、腹黒いと言われる所以の笑みを浮かべて解説をする。

 「餡蜜の城には、幻影を見せる部屋があって、それが此処だったわけ。嗚呼、羽衣? 餡蜜から貰った。あの紫の雌が、好きに動けっつうから、餡蜜と会ってみた。そしたら、あいつ死にかけでさーバカでやんの、オレなんかにこんなのくれてさ。じゃあ、ちょっとむかつくし、こいつ殺したいなって思ってた。そしたらお前らが来る前に紫の雌がやってきて、殺すのを止めやがってさー。まぁ、その代わりに良いこと教えて貰ったけれど」
 そう言って、抹茶は羽衣をふわりと漂わせ、自分へ巻き付かせる。
 額の石を壊された真雪は、心底憎らしそうに抹茶を睨み付ける。そんな睨みすらも微塵とも何ともないようで、自然なことと受け止めて嬉しそうな顔もせず、ただ狼に楽しそうに説明を続けるだけ。
 「額の石を壊されることは、魔法使いにとって最大の恥辱で、死んだことに値するんだってさ? でも、実際生きているんだから、殺したうちに、入らないじゃん? 一番心配だったのは、ろーくん。だって、一瞬躊躇ってたからさーほら、幻影のオレの方を殺してくれないと、あいつこっちに気づくじゃん? 幻影とはいえ、オレは、殺されなきゃいけないわけだし? 何、あれ。最後のあの五月蠅い音。怖いもん、持ってるなぁー」
 けたけたと笑い続ける抹茶へ……狼は、ぶちっと血管が切れて、今度こそ本気で殺そうと、抹茶へ「貴様ぁあああああ!」と剣を向けた。
 でもその表情には幾分もの安堵の表情があって。

 それを見て、真雪は、抹茶を動けなくさせようと、霊圧をかけたが、抹茶は身軽にぴょんぴょんと狼から逃げ回ってげらげらと笑いながらからかう。
 不思議に思う真雪に気づいたのか、抹茶は真雪を見てへらりと笑う。

 「少しおつむ、足りないです? ……抹茶、抹茶が殺したわけじゃない。獣たち、魔物達、殺し合い、企んだだけ。本当、殺してないです。だから、死人の霊圧、ないです」
 そう、例え何百と何千と殺していようと、それは抹茶が切っ掛けを仕組んだだけであって、実際に抹茶が殺した人間なんて、獣なんて、動物なんて、いないのだ。
 軍師と、戦陣に立つ者は違うのだ。否、正確に言えば、抹茶は軍師の位置ですらないかもしれない。
 そこを理解してなかったところが、まだまだ甘いところ、真雪の。
 にやけた顔を真顔に戻して、抹茶は無表情に指を指す。

 「賭け事、オレが勝ったんだから代償くれよ」

*

 王室の王座のほうへ戻ると、千鶴と庵が息絶え絶えに戦っていて、黒蜜と蜂蜜は少しまだ余裕がある様子だった。
 狼は慌てて駆け寄って、二人に加勢しようとする。
 しかし、もう八つ当たりはしない約束だったし、元からこの二人には何の恨みもないので真雪は黒蜜と蜂蜜を止めようとする。
 「義母さん、義父さん、もうやめてください!」
「……真雪? どうしたの? 狼を殺すんじゃ……」
「最初に見つけたとき言ったでしょう、殺すべき人物かどうか判断するって」
「で、殺すべき人間じゃなかったと? 甘いぞ、真雪。そんなんだから、舐められるんだ。お前、額の石は……?! まさかッ……狼、貴様ぁ!」
「違うんです! もう、もう復讐は終わったんですよ!」
「まだだ! 今度はお前の復讐をわしが……」
 黒蜜が今度は狼に向かってきたとき、抹茶の言葉が、場を、否、黒蜜と蜂蜜を凍り付かせた。
 「復讐していいのです? 真雪、それなら最高の復讐相手、います」
「……っげ、ジャム?! あんた、まだ居たの?! っていうか、どこから入ってきて……!!」
「玄関。チャイム鳴らしたら、餡蜜、入れてくれる。抹茶と、魔王の仲です。だから、秘密も知ってます」
 絶対零度の微笑みに、黒蜜と蜂蜜は慌てて狼たち三人から離れる。
 「お願い、言わないで! ほら、もう攻撃しないから……ッ! 私とあんたの仲じゃない!」
「……でも、今、結構面白い場面だし? ……復讐、まだ必要です? ……抹茶、思うのです。今この最も面白い場面のため、居るんじゃないかな」
「……ッ何でも言うことを聞くからッ! 頼む、慈悲を……!」
「それなら、……トットト家ニ帰セ、馬鹿野郎」
作品名:雪は穢れて 作家名:かぎのえ