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雪は穢れて

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 (僕は冒険者というものを知らない。……一つ、気になることがある)

 「冒険者は、本当に皆、勇者を目指して居るんだろうか……」
 ぽつりと呟きを漏らしてから、片手でぽりぽりと頬を掻く。
 冒険者の性質というものを、もう一度最初から考え直す必要がある。そんな気がした。庵に相談しに行くのはきっとまた不審がられるので、副将という地位の千鶴ならば大丈夫だろうと、シャワーを浴びて、着替えをする。皆が心配するだろうから、普段の服装と代わり映え無いけれど、首の痣が見えないような服を選ぶ。
 旅支度を調えるなり、その足で千鶴を捜した。
 その途中の廊下で野良に出会う。やぁ、と狼は挨拶してから、再び捜索を開始しようとしたが、それは野良に腕を捕まえられ、止められる。
 狼は不機嫌そうな顔をこれ見よがしにするが、野良は気にも留めない。
 「首、どうしたの?」
「……ちょっとな、忠告を受け取ったんでね」
 少しの声の調子で首を絞められたと気づかれた。まぁそれは想定内だった。ただ千鶴の所へ行く前に会ったというのが予想外だっただけで。
 野良は、ふぅんと首を傾げる。
 「それより、副将を知らないか」
「嗚呼、王様と何か話していたよ。僕が王様の所へ案内したんだ」
 そう言って野良はにやんと頬笑んだ。何か毒気を含んだような笑みだ。女を堕とすときに使う笑みではなく、どちらかというと、何か罠を張ったときの笑みだ。
 その笑みを見て、野良を問いつめるべきか、千鶴の元へ行くべきか悩んだ末に、結局は千鶴の元へ行った。何かが起きるのならば、その場に居合わせた方が早い。
 狼は野良から無理矢理解放してもらい、じゃあな、と言った後に遅刻するなよと付け足した。
 廊下を駆け抜け、玉座へ行くと、そこには困惑しきり、それでも何も言えない千鶴が居た。
 狼は足音を消して、話を盗み聞きしようか迷ったが、別に自分の部下という名目が既にあるのだから、構わないだろうと玉座へ歩み寄り、千鶴と話している王様へ、跪く。
 「陛下、ご機嫌麗しゅう。ですが、出来れば今は副将には頑張っていただきたい時期。動揺するようなお話ならば、僕も伺って宜しくて?」
「狼か。今日は朝から立て込むそうだな。冒険を頑張りなさい」
「はい、それで、どうかいたしましたか? ご無礼お許しを」
 王様は、狼を見遣り頷くと、千鶴へ視線を移動させる。王様は別に意図的では無かったが、その視線は強者のもので、重みがあった。と、いっても、所詮は、権力者としての強者の視線だが。
 千鶴はその視線は忠誠を誓う主のものなので、より重みを増して受け止める。
 「陛下……」
「狼、千鶴に良い縁談があがっていてな、隣国の貴族の姫だそうだ。千鶴の家柄を考えれば、今より家名も地位もあがる。だから薦めていたのだ。帰ってきたら、ゆっくり考えてくれ」
「……陛下、自分は……」
 言えなかった。その時心に浮かんだ人物の名なんて。
 紫の髪の毛の、妖艶なのに自分には可愛く見える、あの女性の名なんて。
 千鶴は養子で、その養子にしてくれた家にも恩がある。その恩を返すチャンスなのだ。
 「……考えてみます」
「千鶴……では、陛下、用件はこれでお終いですね? 少し彼と確認したい事柄がありますので、これで失礼いたします」
 そういって王様が頷くなり、狼は千鶴についてこいとでも言うように、何も言わず、玉座の間から出て行く。
 千鶴は王様を見遣ってから、狼を見て、お辞儀してから、慌ててついていく。
 そして、狼と共に大理石の廊下で話し込む。廊下を選んだのは誰かが来ても見渡せるし、足音が響くからだ。
 「千鶴……。この事は、庵に伝えても良いか。それともお前から伝えるか? 僕が言うと、下手に伝えそうだ」
「……御大将、自分は……」
「千鶴、いいか、よく聞け」
 狼はタバコを取りだして、咥えて片手で器用に火をつける。紫煙が立ち上る前に口から離して、千鶴へそれを向ける。
 「僕はお前の上司だが、一時の上司だ。だがお前は騎士なんだ、お前の主は王だ。それは延々と続くだろう。騎士とは主に忠誠を誓い、主に仕える者だ。主の願いを聞き入れる。それはお前にも判っているだろう。……だから、蚊帳の外の僕にはそれを止められないんだ。すまない……」
「……御大将が止める手段なんて暗殺くらいしかないですよね」
 冗談として千鶴が言ってるのは判るが、心境を考えると笑えない話だ。
 恐らく、縁談を持ちかけさせたのは野良だろう。暗殺者を使うのは大体が貴族だから、繋がっていてもおかしくはない。それにもし親ではなく女から縁談を持ちかけたのならば、野良の息がかかっている可能性が高い。
 「少なくとも、今の期間は考えるフリをするべきだ。庵に隠してはいけない。隠したら逆に怒るだろう。僕だったら怒るね」
「……御大将。ねぇ、庵は、その、本当に自分のこと……」
 千鶴が頭をかきながら言うと、狼はにやにやとして、少しだけ嬉しそうに、自分で確認するよう言いつけた。
 それから顔つきを一変させて、真面目なものに。餡蜜が来たこと、餡蜜の言葉、冒険者の在り方、全て自分の考えで不審だと思ったものを共に考えようとした。
 千鶴は頭を切り換えて、ふむと唸ったあと、纏まって話さず、ぽつりぽつりと自分の考えた意見を次々に述べていく。
 「何か、餡蜜でならなければならない理由があるんでしょうかね。例えば、森にしたって、元はその付近の魔物ではなくて餡蜜を狙ってだったかもしれません。冒険者の性質はきっと庵の方が判ると思います。庵は魔法使い、パーティだって幾度となく組んでいる筈ですから。親元が殺すよう仕掛けている、とは考えにくいですか?」
「僕からは今、庵には聞けないな。その場に誰か居て良いから、聞いてみてくれ。冒険者の性質を。親元が殺すように、となれば、幽霊がこの前警告してきた意味が判らん」
「……混乱を招かせるとか? 真雪は十八ですよね。十八年も、果たして自分の親が魔王だと気づかずに暮らせるんでしょうか?」
「……――真雪は確か、獣人語も扱えたな。……もし、動物が抹茶を疎んでいて、抹茶が捕まっていることを、真雪に知らせたらどうなる?」
「…………御大将、まさか……?」
「真雪だけじゃないというのがポイントだ、餡蜜の言葉の。抹茶と話せないならば、抹茶と接している、接点のある僕にその言葉を言った。……あの徒党は、組んでいる? 別の何かの目的で? ……真雪の親元を洗い直し、他メンバーの親元を洗い直す必要がある。目的を言わず、親元だけ洗い直させろ。そうすれば、此処まで考えてる意図は判らないだろう、誰にも」
「御意に。では、御大将、そろそろお時間ですので、集合場所へどうぞ。ご武運お祈りしてます」
「僕にはいつだって、武運の女神はいるさ。そうだ、一つ言っておく。抹茶に対してだが、軍にはどう動くか判らんが、僕にとって悪い方向に動く可能性はないと思う。それを確認した」
 その言葉を聞くなり、千鶴は目を見開き、まさかと呟いた後、やっちゃったんですかと思わず下品な質問を浴びせ、そして狼に根性焼きをされる。
 「あつっ!! 御大将、だって、確認って……!!」
「僕がそんな簡単に身を棄てると思うか」
「野良部隊長とは?」
作品名:雪は穢れて 作家名:かぎのえ