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白翁物語 その4(完結)

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「美希、噂になってるんだけど」

美由紀は顔を見るなり開口一番そういった。

「昨日の3年の男子と美希が土日デートするって」

「情報操作してるな・・・」

「え?」

「いや、半分は当たっている」

「半分?」

「白翁の昔の知り合いで、この間亡くなった山田さんが遺言中に私に短刀を渡すようにってあったらしい」

「短刀って?」

「多分、守り刀としてくれたんだろうな」

「もらったの?」

「それをもらいに土日福島まで行って来る。たくさんあってどれがそうだか分からないって言われれば仕方ないだろう」

「美希には分かるの?」

「例え1尺未満だってあの人がいい加減な物を私に残す筈はないからね」

「1尺って?」

「美由紀が今左手に持ってるのが一尺定規じゃないか」

「ああ、30cm」

「まあ、短刀だから平造りだろうけど、肌でいい物かどうかは分かるよ」

「いい物って・・・」

「ああ、悪い、白翁に対する口調で喋っちゃったな。鍛え肌や刃文なんかを見れば本物かどうかは分かるよって意味だ」

「美希とデートする人は大変ね」

「そっちの半分がまちがってる。デートなんかじゃないよ。そもそも恋愛感情から出てるわけじゃない」

「だって、男子と待ち合わせして、一泊旅行するんでしょ?」

「表面的にはそうだな。なんなら来るか? 何もなかったって証明するために」

「行かないわよ。何もなくなかったっていいじゃない。少なくとも図書館に籠もっているよりは健全だと思うわ」

「どうやら図書館で目をつけられていたらしい。図書館で調べ物をしていたのが美由紀だったら似合いのカップルだったのにな」

「美希の方が似合うって。お互い知的じゃない」

「美由紀はどうしてもデートにしたいらしいな・・・」

「だって彼、もう進学決まってるんだから付き合える時間はたくさんあるよ」

「それはあちらの都合。私はいやだな」

「どうして?」

「私の頭の中が読まれているようで気持ち悪い」

「恋愛とはお互いの探りあいからはじまるって雑誌に書いてあったよ」

「まあ、相手のほうに迷惑が掛からなきゃいいか、別に」

「で、美希は彼のことを何て呼んでるの?」

「健一だが?」

「やっぱり付き合ってるんじゃない。お互いを名前で呼んでいるんだから」

「美由紀だってそうだろう」

「相手が女子と男子じゃちがうでしょ?」

「そうなのか?」
「あーあ、彼氏、苦労するわね」




JR常磐線いずみ駅には健一の姉の幸子が待っていた。

「久しぶり、健ちゃん、ずいぶんめんこい子連れてきたな」

「・・・ 電話で言っただろう・・・」

「健ちゃん、ずいぶんがおってるけど、どうかしたのげ?」

「・・・・・・」

「あの」

健一の分の荷物までかかえている美希は、確かに説明が要りそうだなと思った。

「東京から乗り換えてずっと混んでいたんで、私が立つスペースを確保するのに苦労してくれたんです」

「健ちゃん男だもの、そのくらいあたりまえだっぺ」

「姉貴、頼むから美希がいる時には標準語で話してくれ。つられてしまう」

「なんだ、彼女じゃないのげ?」

「まだそこまでいってない」
まだ、というところで美希は笑ってしまった。
健一はばつの悪そうな顔をした。

「久しぶりの姉弟水入らずのところにお邪魔でしたね」

「さすけね」(差し支えない)
幸子は気分よく言った。

「健ちゃんが女の子連れてくるだけでも、あ、車いつまでも置いておけねから、行こ」

駅前には確かに白いセダンが周りの顰蹙をかいそうな場所にとめられていた。
幸子はそそくさと運転席に座ってエンジンを始動した。
助手席には大きなぬいぐるみが置かれていたので、2人とも後部座席に座ることになった。

「健ちゃん無理しねで寝てな」

「そうそう。なんなら肩貸そうか? け・ん・ちゃ・ん」

幸子は大笑いして
「ほんとは膝の方がいいんだっぺ?」

女性陣からからかわれる健一は、さすがに眠気には勝てそうになかった。
さすがに美希には遠慮してか、そのままの姿勢で居眠りを始めた。




幸子がカーポートの前で車を止めると、健一は目がさめて無言で車から降りた。
美希も車から降り、幸子がそろりそろりとバックで車庫入れを始めた。

「あ、ごめん」
健一は美希の持っていたリュックを引っ手繰るようにして

「今まで気が付かなかった」

「いいよ、別に重いもんじゃないし」

「いいなぁ」

「ん?」

「僕も免許を取ろうかな」

「運転して疲れるのが嫌でないんだったらいいんじゃない?」

「あ、こんなところで立ち話してる場合じゃなかった。早く家に入って」

「あわてないで、どのみちもうすぐ夕方だ」

「泊まるとは電話してなかったから」

「さすけね」

幸子がイグニッションキーを付けたキーホルダを指でぐるぐる回し、

「今更、1人2人増えたところでかわんね」

「ああ、そうか」

「何?」

「美希が来て倉を開くって事になったから東北6県から親類が押し寄せてる」

「げ」

「大丈夫、知らない人には標準語で話してくれるはず、だから」

「いや、語尾が上がる東北の言葉は好きだよ」

「まあ、何にせよ、暗くならないうちに見よう」

「そだね」

靴箱には収納しきれない靴が玄関に乱雑に溢れていた。

「ま、何とかしてあがって」
強引に隙間を作って靴を脱いだ。

「なんだ、実家って言うからすごい旧家かと思ったら、モダンな家だね」

「モダンって・・・どういう想像してたんだよ美希は」

「ここ1年、ハイカラな家には上がってなかったからね」

「あ、そっちじゃない。この部屋」

「この部屋が倉に?」

「倉開きはもう終わってるんだって。短刀だけこの部屋においてあるはずだから。そっち行ってもいいけど、親戚連中の中に入り込むよ」

「それは勘弁、入っていいか」

「うん」

「畳部屋か。床の間もあっていいね」

「こっちこっち」
20畳ほどもある大きな和室の片隅にたくさんの刀が並べてあった。

「これとそれは脇差だから違うな。寸延びが七振りに定寸が十五振りか・・・随分と集めてたんだね」

「何故外見でわかる?」

「だってその二振りは一尺五寸はあるじゃないか。それは脇差だよ」

「じゃあ、残りの22本の中から選ぶって事?」

「さすがにこんなにあるとは思わなかった・・・・・・」

「僕に手伝えることはある?」

「打粉と手入布と椿油をもらってきてくれる? 錆びていなければそれで十分だけど」

「わかった。姉貴に出してもらってくる」


健一が部屋を出て行ってから美希はふぅっと溜息をついた。

美希は静まり返った部屋の中で、畳に手を付いて深々と礼をした。
それは、表面的には目の前の刀に対してだが、美希が礼をする相手が物の筈がない。


「これはどういう意味なんでしょうね」

美希は呟いた。
勿論答は返ってこない。

「あなたが期待しているのはこの中から探し出すことだけではないんでしょう?」