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カタルシス

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まだ、日本人の空が限りなかったころ―――。
 空から宇宙人が来た。彼らは重力を司る技術を有していた。彼らは表向きは、地球人に協力をする振りをした。彼らは、『技術力が最も高い日本』を定住の地としたが、本当は『四方を海に囲まれた日本』に定住したのだった。
 わずか数年間で世界は大いに発展した。宇宙人たちは着々と地球になじんでいった。彼らは温厚なうえ、その技術力を持って自分たちの子供たちを地球人そっくりの容姿にした。しかし、彼らの子供身体の能力は人類を遥かに凌駕していた。―――だが、彼らにはそれでよかったのだ。
 30年前、宇宙人たちは自らをウラノスと名乗った。
 ―――ウラノス、ギリシャ神話の大地。神々の始まり。
 それに対して、人類はクロノス作戦を開始した。
 宇宙人たちへの対抗策、毒をもって毒を制す。人類はウラノスたちを日本に閉じ込めた。
 ―――超重力フィールド弾。
 ウラノスたちの技術で作った諸刃の武器。
 逃げ切れた日本人たちは政府の高官、要人たち。日本は大いに混乱したにちがいない。
 結果、超重力フィールド弾によって日本は沖縄と北方領土を除き、重力の層に閉じ込められた。以来、この世界はA世界と呼ばれ、日本をB世界と呼ぶようになった。この世界はクロノス作戦以来、互いに干渉することなく存在し続けた。
 ―――そして、今日が120年目だった。
 回想に耽るなか、私は胸が押しつぶされていくの感じた。


1章、交錯
 6月3日、今日で俺は18歳だ。正確にはあと、6時間32分後。俺は今から18年前の6月3日の6時32分に生まれた。何でも、遠い昔俺らの世界は大いに変わったらしい。ウラノスという宇宙人の技術により分断された世界。混乱に充ちた世界。どうやら大変だったが、何でもこのウラノスがもたらしてくれた技術のおかげで人類は時間はかかったものの、何とかなったらしい。滅ぼした技術のクセに、何か複雑な気分だ。
 今は深夜0時。
「ハッピーバースデー、上月飛鳥」
 俺はひとり、つぶやくとそのままベッドに体を沈め、意識を朦朧としていく、この自らの感覚に委ねていった。
 6時半には俺は、とある山の獣道を走っていた。別に毎日、こうしてこの道を走ってるわけじゃない。これは俺の誕生日の特別な日課。おおよそ生まれた時刻になったころには、家の近所の自販機であらかじめ買っといたスポーツドリンクを開けて飲んでいた。…今日も平日だなんてことが少し憂鬱ながらも今、俺の気持ちはどこかさっぱりしていた。
 スポーツドリンクを飲みながら、なんとなく自分の人生を振り返っていた。ある日、親が言ってた。
「飛鳥は6歳の誕生日までどうも感情がなかったのよ」
 ……確かに何をしても特段、楽しくはなかった記憶はある。それに、たまにはケンカをすることがあったにせよ、所謂、頭がカッとなる感覚はなかった。
 といっても、たぶん。時期から考えるに、のぞみおねーさんに会ったのがきっかけだと思う。
 のぞみおねーさんは不思議な人だった。のぞみおねーさんは12歳なんだけど、小学校に行ってる様な感じはしなかった。裏山の誰も通らない獣道を少しはずれたところ‐要するに今、俺がいるところ‐、そこにのぞみおねーさんはいつだっていたからだ。でも、のぞみおねーさんはとても頭がよかったし、運動もかなり出来た。今の俺でもイマイチ理解できていない数学や物理、やっとの思いでできるようになったバク転とか技の数々。……それに、のぞみおねーさんはとっても優しかった。あの人がいなかったら俺は山で遭難してそのまま下山できずに死んでいたのかもしれない。そう思うと、感謝してもしきれない。そんな存在だ。
 出会ってから毎日、俺はのぞみおねーさんのもとへと通った。けど、時々、俺は友達と遊んだりや、体を壊して行けなかった日があったりで行けなかった日も当然あったりはした。けれど、ちょっと会えなかったぐらいで、のぞみおねーさんは悲しそうな顔はしたことはなかった。
 だけど…、4年ぐらいたったある日のこと、のぞみおねーさんは突然、消えた。消えてから一ヶ月程は、気になって気になって仕方なくてたまらなくて日没まで待っていた。けれども、あることを知ったことによりその習慣はなくなった。
 ―――天狗。
 たまたま、インターネットで読んだ怪談話。そこに載ってた天狗のやってることが、まさにのぞみおねーさんとそっくりだった。だから俺は源義経のごとく、のぞみおねーさん(天狗?)に鍛えられたのだろうと思っていた。だって、なんだかんだで学校で一番運動できたし、勉強もできたから。
 閑話休題。
 それで、何故、のぞみおねーさんの居た所へと行かなくなったかというと、ずばりと言えば『怖い』からだ。俺は怖いものが大嫌いなのだ。
 ついでに、今、こんなにのぞみおねーさんのことを思い出すのは、この場所がのぞみおねーさんの住みかだったからだ。
 もしかしたら、俺の誕生日を覚えててくれて祝ってくれるかもしれないから。
 祝ってもらいたくて、ただそれだけで、誕生日の日だけは俺は毎日、朝早くここにいる。のぞみおねーさんがいなくなるまでの4年間の誕生日の朝は、親の次にはのぞみおねーさんにおめでとうを言われてた。時が流れ、のぞみおねーさんが消えて、そのうち中学になってからは俺のほうが親より先に早起きになって、学校に行ってたから、友達が最初におめでとうを言ってくれる存在になってた。
「……ただ、できればあんたに祝ってもらいたいな」
 ただ一人、ため息をつく。吐き出した息の代わりに、手に持っていたスポーツドリンクの残りを全部煽る。
「よいしょっと・・・」
 俺は腰をあげた。そのとき、俺の後ろでがさりと、音が聞こえた。
「なんだ?」
 ……もしかして、幽霊か?
 先述のとおり、俺はこういう怖いことがまったくもって駄目なのだ。のぞみおねーさん天狗説を考えるに至ってからはしばらくの間、のぞみおねーさん(=天狗)に監視されているのではないかと思っていた。
 しゃべったら、消される・・・。
 そんなことを思って生きていた。
「…もしかして、天狗?」
 汗が頬を伝った。やばい、膝が笑ってる。
 俺は意を決して振り向こうとした。ら―――
「おい」
 声。女の声。―――とか思うより先に、『お』の時点で反射的に俺は飛び上がっていた。
「ひっぃ!!」
 振り向きながら腰を抜かして倒れた。…我ながら情けない。しかし、地味に器用な動作だ。
 俺の視点は偶然にも昔の、6歳のごろぐらいの高さになった。
 ―――そして、その目線の先には彼女がいた。
「のぞみおねーさん?」
「…どうして疑問系なんだ?」
「いや、だって…。8年ぶりなんだし」
「ああ。そうか…」
「ああ。そうか・・・って。相変わらずクールというか、人間離れしたセンスだよね・・・」
「ふふふ。そういう飛鳥君は騒がしくなったな」
 久しぶりに見たのぞみおねーさんの笑顔。俺も自然と笑顔になっていた。…今まで会いたかった人に会えれば嬉しくなるのは当然だろ?
「のぞみおねーさんがいない間いろいろあったからね」
「そうか。そういえば、私のほうも色々あったな」
「のぞみおねーさんの色々は全然予想つかないよ」
作品名:カタルシス 作家名:よっち