カミサマカクシ
「――あのですね、お兄さまの後ろを歩いている時に、私より小さな子に袖を引かれたのです」
スピカは、うつむく兄の頭に向けて落とすように言った。
「で、ちょっとお話の相手してあげたら、とても喜ぶものですから。お兄さまが先に行ってしまわれるのが見えたけれど、まあ後で小走りで追いかければいいかなって思って」
「そういえば、どうしてお兄さまは止まらないんだろうとは思いませんでしたねえ」
「本当に小さな子だったので、その場にかがんで話していたのです。そうしたらいきなり目をふさがれて」
「で、気付いたらここに立っていました。お兄さまがぼろぼろなっていらして、夜でした」
妹の話を聞き終えて、暁彦はほうとため息を付いた。
「そうか……別に危害を加えられたわけではないんだな?」
ようやく笑顔を見せた彼に、妹は逆にきゅっと眉を寄せる。
「あのう、危害っていう点ではお兄さまの方がひどいと思いますけど。早く帰ってお手当てしないと……」
「身体の傷など問題ではない。……少し待っていろ。動くなよ。お前を返して下さったことのお礼を言って帰るから」
やんわりとがめられて手を放された。朽ちた建物に向かう前に、暁彦は首だけで妹の方を一回振り返る。
「この辺ではお前のような子供は珍しいから、何かがお前に興味を持たれたのだろう」
「いえ、きっと……それは違うと私は思います」
聞こえないとは分かりつつも、遠ざかる兄の後ろ姿にスピカはそう告げた。
そして、