エッセイ『男の子の隠れ家』
男の隠れ家その2/山梨県富士吉田・ホテル鐘山苑
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山梨県富士吉田。富士山駅で有名な街に下りたって、バイパスを一路山中湖方面へ。途中忍野村方面に左折すれば、すぐにホテル鐘山苑が見えてくる。見上げるだけでも長大な建物が迫ってくるが、正面から見えるのは敷地の半分程度というのが恐ろしいところ。ホテルに入ると巨大な日本庭園があり、ホテル内には一級河川の桂川が通っている。敷地内に一級河川が通っている宿なんてそうそうない。この清流のせせらぎを聞くだけでも、この宿を選んで良かったと思わされる。
宿のサービスは流石に上質。観光地ずれした態度の悪い仲居なんて一人もいません。正面玄関を抜けるとすぐにフロントという造りで、フロントからすぐにロビーに通じる。フロント抜けたらもう別世界ですからね。明るく広いロビーには浮舞台が設えられ、綺麗な水の中を色取り取りの鯉が泳ぎ回っている。すげえ金かかってます。
宿に着いたらまずは部屋に荷物を置いて、早速庭園へ。このホテルトは『鐘山苑で一日過ごせる』をコンセプトにしているらしく、館内設備は充実の一言。庭園の奥には茶屋があり、宿泊客なら誰でもここで和菓子とお抹茶を頂くことが可能です。お抹茶を美味しく飲み干したら、夕食まで後はゆったりくつろぐ時間。庭園で四季折々の草花を楽しむも良し、早速温泉に行くも良し。温泉は三種類あり、どこも大浴場になっている。特に最近オープンした富士展望温泉は絶景の一言。男性と女性で使える時間が異なっているので、そこだけは要注意。とにかくこの、ホテル最上階の温泉から望む富士山は絶景の一言に尽きる。
温泉でゆっくりとくつろいだら、時間は既に夕食の時間になっているはず。食事は基本的には部屋食、個室料亭、キッチンダイニングの三種類。これはプランによって違うので、詳しくはホテルに問い合わせると良いだろう。どこで食べても味は絶品、和食を基本にした創作料理はそこらの旅館、ホテルでは手も足も出ないような美味尽くし。個人的なお勧めはキッチンダイニングで食べる夕食で、目の前のオープンキッチンで料理されたものを持ってきてくれるのでどれも必ず出来たての料理を食べることができる。お品書きは季節によって様々で、僕がよく利用する春ならば鯛や桜を用いたメニューが豊富。アルコール類も豊富だし、夜食用の料亭も別にあるのでホテル内だけでお腹は間違いなく満ちる。
食事を終えても、ホテル内では様々な催し物が開かれる。宿泊客が参加するビンゴゲーム(一等の人にはホテルで使用している特別な枕がプレゼントされる。売店でも売っているが、値段が結構するのでここで当たると嬉しいだろう)、浮舞台で行われる陣太鼓、春ならば夜桜見物、夏ならホタル見物など、庭園でのイベントも豊富。とにかく全ての楽しみを宿内だけで完結させようとしている姿勢が素晴らしい。
部屋の種類も多く、プランによって異なるものの、普通の旅館と比べたらどの部屋もかなり広めの面積がとられている。清潔さは勿論のこと、ウェルカム用の和菓子も絶品。余談ですが、この鐘山苑とも取引のある和菓子屋は僕の嫁さんの親戚だったりして、これはもうちょっとどころではない自慢だったり。いやあマジで美味いんだよこの和菓子屋。
帰り際に売店に寄ることもお忘れなく。土地に対する売上額が日本一だかになったこともあるというこの売店は、ここでしか買えない鐘山苑オリジナルのお土産(菓子類や漬け物等が豊富)が沢山。どれだけ自分のところの土産物を推してるかって、山梨ならどこに行っても買える定番お土産の信玄餅がちょっと探さないと見つからない位置に追い遣られているぐらい。飲食物の他にもお土産類は種類が豊富なので、ここでの買い物を逃す手はない。
チェックインからチェックアウトまで、宿の中だけで楽しめるというのは、実は結構珍しかったりする。観光地を慌ただしく飛び回るような旅行もいいけれど、たまにはゆっくり、季節を楽しんで一日を過ごすような旅もどうだろうか。価格帯は他の旅館、ホテルとくらべて少し高めだけど(一泊二食で25000円前後からといったところ)、それだけ払う価値は必ずあります。僕は毎年春に利用してるけど、後悔したこと一度もないっすからね。
毎日毎日仕事して、たまの休日は少し贅沢な宿で過ごす。活力が湧くってもんです。明日っからまた頑張ろうって思えるから。またこういう宿に泊まるためだからしかたねえ、クソつまんねえ仕事するかって気になるからね。
富士五湖観光の中継基地としても立地良しのホテル鐘山苑、一度泊まってみてはいかがでしょうか。
作品名:エッセイ『男の子の隠れ家』 作家名:名寄椋司