雨の日が好き
雨の中、家の軒先から軒先へと走っている女学生がいた。僕は彼女とは反対方向に歩いていた。彼女の長い黒髪は重そうに濡れていた。あと5メートルも歩けばぼくと彼女はすれ違う。
彼女は軒先で止まっていた。
ぼくは彼女を傘に入れて送ろうかと考えた。でも、と考えてしまった。逆の方向を歩いているぼくがそんなことをするのは不自然に思えた。
ぼくは21歳。ナンパしているように思われそうだ。
「この傘使って」
ぼくは彼女に傘を渡した。彼女はきょとんとしたようだった。
「うれしいですがお返しするのに・・・」
「返さなくていいですよ。ぼくの家はすぐそこですから」
ぼくは適当なことを言った。
まだ僕の家までは500メートルほどあった。
ぼくは雨の中を走りだした。彼女の声が聞こえた。
「待って下さい」
ただぼくは走った。
それから1カ月が過ぎた。僕が彼女と会った道を通るのはめったにない。
図書館に行くときだけなのだ。
その道で彼女に声をかけられた。
「ありがとうございました」
彼女はぼくの貸し傘を返した。今日は晴れている。
ぼくは咄嗟に感じた。
彼女はぼくに傘を返すためにいつも傘を持ち歩いていたのではないかと。
「返せて良かった」
「かえって迷惑かけてしまったね」
「少し風邪気味でしたから助かりました」
こんな会話をしながら、ぼくと彼女は歩いていた。
「今日はこれで失礼します。雨が降ったらここにきてくれますか」
「どうして」
「雨の日が好きなんです」
「ぼくは雨は嫌いだな」
「くちなしの花やスズランの白さが雨に洗われて綺麗なんです」
彼女はその言葉を残してぼくと別れた。
彼女は軒先で止まっていた。
ぼくは彼女を傘に入れて送ろうかと考えた。でも、と考えてしまった。逆の方向を歩いているぼくがそんなことをするのは不自然に思えた。
ぼくは21歳。ナンパしているように思われそうだ。
「この傘使って」
ぼくは彼女に傘を渡した。彼女はきょとんとしたようだった。
「うれしいですがお返しするのに・・・」
「返さなくていいですよ。ぼくの家はすぐそこですから」
ぼくは適当なことを言った。
まだ僕の家までは500メートルほどあった。
ぼくは雨の中を走りだした。彼女の声が聞こえた。
「待って下さい」
ただぼくは走った。
それから1カ月が過ぎた。僕が彼女と会った道を通るのはめったにない。
図書館に行くときだけなのだ。
その道で彼女に声をかけられた。
「ありがとうございました」
彼女はぼくの貸し傘を返した。今日は晴れている。
ぼくは咄嗟に感じた。
彼女はぼくに傘を返すためにいつも傘を持ち歩いていたのではないかと。
「返せて良かった」
「かえって迷惑かけてしまったね」
「少し風邪気味でしたから助かりました」
こんな会話をしながら、ぼくと彼女は歩いていた。
「今日はこれで失礼します。雨が降ったらここにきてくれますか」
「どうして」
「雨の日が好きなんです」
「ぼくは雨は嫌いだな」
「くちなしの花やスズランの白さが雨に洗われて綺麗なんです」
彼女はその言葉を残してぼくと別れた。