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ゴウヤクと愉快な仲間達 -炎灼主-

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<<立場の違い>>


「ゴウヤクは行っちゃったみたいねぇ?」
 一人旅は久々で、なんとなく隣に寂しさを感じていたところそんな声がかかって思わず肩を跳ね上げた。
 振り向くと、ニヤリと笑顔の真紅の髪をした女性が一人。
「炎灼主(エンシャクシュ)か?」
 その女性を見たのは初めてだが、しゃべり方に覚えがあった。
 以前炎王から押し付けられ旅のパートナーとなった女性だ。
 呼ばれて女性は特に返答はせずに無王の傍まで歩いてきた。
「ゴウヤクから、『自分がいない間無王をお願いします』って言われたの」
 フフフと笑って長身の無王を見上げる。
「『名前』は?」
「央高 琴(オウコウ キン)」
「変な名前」
「…仕方ないだろう」
 時々に寄るが、今回はこの肉体が生まれた時に付けられた名前をそのまま利用している。
 それにしても、なんだか壮大っぽい名前のときが多い気もする。
 気のせいだろうが。
「ゴウヤク、アンタのこと結構心配してたわよ」
「本当か?」
 ちょっと嬉しかった。
「嘘じゃないわ」
 ニコニコ笑っている。
「でも、アンタにあげるとは言わないから」
 笑いながらさらっと言われてしまう。
「とりあえず、ゴウヤクはコウライとショウロウのものだから二人に許可貰いなさい。あ、私自身も入れて良いかしら?」
「『炎の英雄』には聞く必要が無いんじゃないのか?」
 ちょっとムっとしつつ。
 今、ゴウヤクはその『炎の英雄』ショウロウについての件でここにはいない。
 数年から数十年は帰らないそうだ。
 ショウロウはゴウヤクの子供で、子供がいるということは伴侶もいるということ。コウライというのがショウロウの母でゴウヤクの妻だった。
 コウライという人物も大分特殊な立場にある。
 このエンシャクシュという女性の僕(しもべ)として、精霊に極近い存在としてある。
 ゴウヤクはエンシャクシュの呪いで幾度生まれ変わっても魂の次元でコウライを愛し続けることになっているらしい。
 精霊の状態のコウライとは出会うことができない為に(エンシャクシュの一部となっている為)、時々地上に生まれるコウライとの再会を待ち望んで無王と共に地上にいる。
 無王は何故だか自身分からないがゴウヤクに好意を持っている。
 しかし決して完全に受け入れてもらえるわけでは無い理由がここにある。
 コウライの存在が悔しい、そして嫉妬もする。
「ショウロウも…思春期は過ぎてたけどまだ若いうちに死んだしねぇ。自分のお父さんが自分のお母さん以外と付き合うのもいかがかと」
「今更気にするようなことでも無いだろう」
 ゴウヤクも「我が子の気性はさっぱりしてる」といっていた。そもそもショウロウにも子供が、子孫がいる。
 それに死んだのが若いとは言っても呪われし血族の為100歳程にはなっていただろう。100にならずに亡くなったも聞いていたかもしれない。
 そう、そもそも100まで生きられなかった理由は…
「お前が原因だったんじゃ?」
 エンシャクシュの呪いで。
 このゴウヤク達の生前に多大な影響を及ぼしたことを以前、炎王は無王とゴウヤクをさして『彼女に迷惑をかけられた繋がり』と言った。
「私のせいっていうか、私が自ら望んでそうしたわけじゃないし」
「…」
 それはそうなのだが。
「ま、これらのことは全てゴウヤクが望んで受け入れていることだから私は知らないわよ。だって、ゴウヤクは私たちよりずっと上にいる存在なのよ?今ならば私の呪縛ぐらいはずせるし、嫌だといえば『運命の日』の計画さえ止められるし、止めなくても不参加表明くらいできる。それでもアノコは全てを自ら選んで現状にあるの。」
 それは、言われなくてもわかっていたはずだった。
 ただ、エンシャクシュは無王のことも好きだったらしい。
「アンタと一緒にいることも含めてね」
 付け加えると無王の表情が無意識に明るくなって、おかしくて吹き出しそうになった。
 分かり安すぎる。
 







<<エンシャクシュの話>>


『炎の乙女』と呼ばれる存在がいた。
 それが独りの人物のことなのか、称号のようなものなのか等は知られていなかったが、恐れられる存在であるのは確かだった。
 時間が経過し彼女の名前が風化しかかったのも事実だが、それでも彼女が存在したのも事実だった。

 実際の『炎の乙女』略称『?女(エンメ)』は人に憑依する霊魂のような存在だった。
 ただし、体を乗っ取りその?女が肉体を支配し動かしている間は外見まで全て変わってしまう。男に憑依したこともあったが、『炎の乙女』が肉体を支配すると例外を除いて女性の姿へと変わる。
 そうやって『炎の乙女』が肉体に憑依したものは59人いる。実際は炎の乙女が憑こうとしたが負荷に耐え切れず滅びてしまった者も数知れず。59人と言っても数週間から数ヶ月しか持たなかった者もいる。

 57代目の『炎の乙女』は儀式により強制的にその身に『炎の乙女』を宿された女性だった。彼女は妊娠しており、その儀式を行った者により58代目の『炎の乙女』は彼女の腹の中の子になると定められてしまった。
 57代目の彼女は拒否したが仕切れず、また『炎の乙女』の負荷により著しく寿命を消耗し幼い娘を置いて他界した。
 58代目はそうやって自動的に『炎の乙女』となった。
 58代目には幼馴染の姉弟がいて、その弟が彼女の婚約者となった。
 彼は炎の乙女をも受け入れコントロールし、特別に『炎の乙女』が認めた者としての力を手にれた。
 彼は、58代目も同じだったが『呪われし血族』の血が濃いものだった。
 彼は、その『呪い』を長寿以外殆どを解除された。
 故に『呪い』の無い『呪われし血族』の者とも言われた。
 それは、必要だったから『炎の乙女』が取った処置でもあった。
 彼は子供が宿ると『炎の乙女』である母体の寿命がさらに縮むことを知っていたので当初子供を作ることを反対したが、58代目が望んだ為に子供を作った。
 本来ならばこれら一連の流れで気がおかしくなってしまう可能性のある『呪い』を彼は既に解除されていたので冷静に受け入れた。
 そして彼女は呪いが色濃く残っている村から夫と子供を置いて去った。
 死期を悟って。
 『呪われし血族』の呪いの発動を恐れてと、少しでも息子となってしまった『娘』から『炎の乙女』を離す為に。
 そもそも、『炎の乙女』は彼女の夫と約束していた。
 誰よりも憑き易い58代目の子供(娘)には憑かないと。
 そして、人知れず58代目は他界した。

 それから50〜60年の年月が流れ。
 59代目が誕生した。
 それは奇しくも58代目の子供だった。
 『炎の乙女』は58代目もその夫も愛していたので、自らの意思ではないとは言え59代目として彼らの子供に憑いてしまったことに苦悩した。
 そう、59代目は57代目同様儀式によって『炎の乙女』を憑けられた。
 それもだまされ、利用され。
 58代目の夫は温かく迎えてくれた。
 
 そうやって、59代目と58代目の夫の力などがあり『炎の乙女』は憑依の運命から開放されて『炎灼主(エンシャクシュ)』という炎の精霊王配下としての存在へ移行した。