小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

「レイコの青春」 25~27

INDEX|9ページ/9ページ|

前のページ
 


 「綾乃は?」

 そう問われた園長先生が、静かに首を左右に振りました。
握りしめられた園長先生のこぶしへ、美千子の両手がすがります。


 「何が・・何があったんですか、
 あの子は、綾乃は、なぜ、どうして・・・」



 「発見した時には、すでに呼吸が有りませんでした。
 急いで救急車を呼びましたが、蘇生の効果もなかったようです。
 うつぶせで寝ていた綾乃ちゃんに、
 もっと早くわたしが気が付いていたら、
 あなたの大事な綾乃ちゃんは、
 こんなことには・・・ならなかったのかも知れません。
 保育者としての私は、有ってはならない重大な
 ミスを冒してしまったようです・・・。」


 廊下の気配を察したかのように、集中治療室のドアが開きました。




 「お母さんですか?」



 頷ずいた美千子を、医師が目で招き入れます。
入室しようと動き始めた園長やレイコたちを、再び医師が目で制します。
集中治療室のドアが、静かに閉められました。
再び、人の動く気配が消えた静かな集中治療室と物音一つしない、
病院の静寂が戻ってきました。


 やがて最初の物音が聞こえてきたのは、外部からの足音でした。
背広姿の男性が二人、その後ろには制服姿の警官と
婦警さんが続いてきます。
静かに歩み寄ってきて、園長先生の前で立ち止まりました。



 「病院のほうから連絡をもらいました。
 園長先生ですね?
 当事者としてお話だけ、お伺いしたいと思います。
 申しわけありませんが、これから署までお願いできますか。
 あ、みなさんは、今夜は結構です。
 いずれ、個別にお伺いするかもしれませんが、
 本日は病院のほうで、このあとの対応に専念をしてください。
 では、いずれその時にまた。」


 そう言われても、なをも同行しょうとする幸子を
園長先生が、目で止めました。
レイコへひとこと、「美千子さんがとても心配です。お願いしますね。」と
声をかけると、美千子の同僚にも丁寧に頭を下げます。
やがて婦人警官に肩を支えられながら、
病院内の長い廊下を歩き始めます。



集中治療室の中でも、かすかに空気が動き始めました。
美千子の低い声と、それに続く小さな嗚咽が、廊下にまで洩れてきます。
なにかにつけてとかくの負けず嫌いで、
人前などでは一切泣いたことが無いと
いつも笑っていた「頑張り屋」の美千子が、レイコに、
初めて聴かせる、それは涙声でした。


(28)へつづく