「レイコの青春」 25~27
「どうしていつも、私だけが、仲間はずれなの。
なぜ、私だけが除外される訳?
公務員と言う理由で、わたしが除外されるなら、
いいのよ、今すぐに、市役所なんか辞めてくるから!
悔しい!」
「そう言うつもりではないのよ、陽子さん。
政治的な活動となると、公務員としては不具合が有るということで、
レイコと相談をして決めたことなの。
みんなからの『思いやり』と、言ってほしいわね。」
「それこそが、公務員への偏見です。
たしかに公務員にとって、政治的中立は義務にあたります。
でも政治にまつわる要望や行動に、
何一つ参加できないということになってしまえば、
私は、”貝になる”しかありません。
これからの時代、女が働きながら子供を産み、育てるためには
ゼロ歳児から預かってくれる保育園が、たくさん必要になります。
それは政治ではなく、生活そのものから生まれる出てくる
必然的な要望です。
今の政治が、私たちの生活を守ってくれないからこそ、
母親たちの要望が、政治的な行動として睨まれているだけです。
生活から生まれきた要望や、改善を求める声をあげて、
そのために行動をすれば、
それが全部、政治的な声や行動として誤解をされています。
公務員だって政治的に中立であるまえに、
基本的には、皆さんと同じ、
桐生で生きている生活者の一人です。」
「本当に、あなたは
有能なオルガ―ナイザー(組織者)のひとりです。
こんな有能な弁士さんを放っておく手はありません。
もしかしたら、みなさんよりも上手に労働組合を説得してくれそうです。
仲間に入れてあげたらどうですか。
たしかに身分は公務員ですが、将来的には陽子さんも、
働きながら子育てをする現代女性のひとりです。
わたくしは、あなたを大歓迎します。」
園長先生が、にこやかにとりなしてくれました。
企業そのものや、個人商店、労働組合からの寄付金をはじめ、
労働者や市民からの小口カンパとして、一口2千円以上の建設債権の募集、
さらに物品販売のバザーも実施するなど、次々と資金集めのための
アイデァが出されました。
結局、これらを全部やってみようと言う話になりました。
まずは市長からと言うことで、一行は市役所を訪れます。
一通りの説明を聞き終えた市長さんは、
「市として補助金を出す事など、出来る限りの援助はしたいと思いますが、
市長個人としてはいち保育園へお金を出すのには、問題がある」
ということで、オルグ隊も、市長の立場を理解して、
退出することにしました。
続いて、各企業を訪問する段取りになりました。
商工業の頂点に立つ組織へ、まずは、表敬訪問をしようということになり、
まっさきに、商工会議所を訪ねてみました。
しかしこちらへは繰り返し、3回ほど訪問をしてみましたが、
その都度、すべてものの見事に断られてしまいます。
出鼻をくじかれた感もありましたが、
気を取り直して予定通り、労働組合回りを始めることになりました。
本格的に、地協傘下の労働組合をひとつずつ訪問をしながら、
趣旨を説明して、カンパ帳を廻してもらうことになりました。
多くの労働組合では、組織カンパや小口のカンパをはじめとして、
建設債などにも賛同をしてくれるなど、
積極的な協力の輪が広がり始めます。
しかし、
すべてのところで順調に進んだわけではありません。
ある労働組合では、カンパ帳の申し入れを、
親組合の役員会が否決したばかりか、青年婦人部のカンパ活動さえも
禁じてしまいました。
保護者が、職場の仲間から集めてきたカンパまでも、
協力者の一人一人へ強制的に、返還させるところ
などもでてきました。
しかし勢いにのったこの資金調達の活動は、
小さな地方都市の桐生市に、きわめて大きな波を生み出しました。
わずか3か月あまりで、カンパ・建設債・物品販売による
収入の総合計額は、当初の予想をはるかに超えて、
4.485.900円にまで到達をしてしまいます。
作品名:「レイコの青春」 25~27 作家名:落合順平