ギャンブラー物語
時計は午前3時を過ぎていた。
分厚い木製のカウンターに並べられたトランプ。
男が三人、女が二人ポーカーをしている。
ここはビルの3階、バーという看板は出しているがさっぱり人気がないバーだ。
店内はカウンターの他には暗い照明と、少し傾いたビリヤードの台。
調整すればいいものの癖のあるビリヤード台はマスターの稼ぎ頭だった。
腕に覚えがあるハスラー気取りのお兄ちゃんを引きずりこんでは
傾いた癖を知り尽くしたマスターのいくらかのこずかい稼ぎに利用されてた。
「何時までやるんだい?」優作は負けが込んでる女に聞いた。
「もうちょっと・・・」
長い髪を少しウェーブさせた彼女は顔も色気も申し分ないのだが、
とかくギャンブルには目がなかった。
「マスター、いい加減やめさせねーと、このおばはんしつこいんじゃない?」
「勝ってる奴は、負けた者の言うことは聞いてあげないとかわいそうだろ?
つきあってやれよ」
マスターはグラスを拭きながらオーティスレディングのCDのボリュームを上げた。
「ねぇ~、モモちゃん・・いい加減あきらめないと今夜だけでも3万はいってるよ・・」
「いいの・・うるさいわね~。ツキがない時はとことん落ち込んだ方が立ち上がりが早いのよ」
モモ53歳。自営業。結婚の経験あり。現在は離婚している。
家事が苦手で旦那が嫌になった。
自由奔放にしたいことをしたい・・・が彼女が離婚で手に入れたポリシーだ。
別にギャンブルに狂ってるわけではないのだが、明日知れない身を占いでもするかのようにトランプに今後の行方を託すのが好きだった。
「私の未来はトランプに聞いて頂戴・・・」綺麗な指先がめくったカードは
この日を象徴するかのようなワンペアにもならないハートのクイーンだった。
「オープンだ。見せろよ。終わってるだろ。またクズ手に決まってる」
「なんでわかんのよ」
「顔に書いてある。ポーカーはポーカーフェイスって言葉があるだろ、知らないのか?」
「そんなに顔に出てる?」
「あ~、ダメだダメだ・・・私は運が無いって顔に出してる。終わりだ。もうやめだ」
「最低!まだ付き合ってくれてもいいじゃない」
「もう他のみんなもうんざりなんだよ、今日は。モモ、飲みに行こう。負け賃は要らない」
「負け賃ぐらい払うわよ」
「いいから、いいから。ちょっと付き合って欲しいとこがあるんだ」
優作とモモとは、もう2年の知り合いだった。
ここ寂れた怪しいバーでの付き合いなのだが、なんとなく気があった。
優作も50になり、昔のハードボイルドは似合わない。
首のたるみ、薄くなった頭。
まだそこらへんのサラリーマンよりましだが、十分親父になっていた。