なんでも治す薬 四、
お母ちゃんを見送ると、かなちゃんはまたテレビを見始めました。
すると間もなく、電話が鳴りだしました。テレビを見始めてから、これで二回目です。さっきはお母ちゃんが先に出たようでしたが、今度はかなちゃんの方が早く出ました。
「はい、もしもし」
電話の相手は、お父ちゃんの働いている大学の、先生でした。
「はい、お父ちゃん、おります。
代わりますさかい、少々お待ちください」
かなちゃんは受話器を電話の隣に置くと、お父ちゃんを呼びました。
「お父ちゃーん、電話! 大学の先生から」
「おう、ありがとう。すぐ行くわ」
お父ちゃんはばたばたと下りてくると、受話器を取りました。
「もしもし、お電話代わりました。
……はい、はい。えぇっ!? ほんまですか!? はい、あぁ、了解です」
心なしか、お父ちゃんの声が、少し、緊張しているように聞こえました。
ガチャッ、と、受話器を置く音がしたかと思うと、お父ちゃんは申し訳なさそうな顔で、かなちゃんに言いました。
「かな、お父ちゃんもなぁ。急用で、大学の方へ行かなあかんようなってもうてん。
今日中に、帰ってこれんかも知れへんさかい……。
一人や、心細いやろ。隣のあっくんとこのおばちゃんに、ちょっと言うとくわ」
受話器に手をかけたおとうちゃんを、かなちゃんは、
「ええよ」
と止めました。
「大丈夫。かな、ちゃんとお留守番できるさかい」
「そうか……ほんまに、大丈夫か? 」
「うん、大丈夫」
かなちゃんは答えました。
本当は、一人きりになることが、少しだけ心細くもありました。しかし、ずっと見られて、後でこっそり告げ口されるよりは、ましです。
「ほな、行ってくるわ」
「はーい、行ってらっしゃーい」
お父ちゃんの言葉に、かなちゃんは、できるだけ落ち着いて聞こえるように返しました。
作品名:なんでも治す薬 四、 作家名:LUNA