春の風が吹いて
僕は酔った陽子とカウンターに並んで二人になった。
陽子は下を向いてべそをかいていた。
「泣くなよ陽子。久しぶりに会えたんじゃないか」
「先輩・・・・うれしいっす」陽子は抱きついてきた。
「おい、おい、待て」僕は慌てた。
「先輩、こんな偶然、天使の贈り物と思わないんですか?」
「思わね~よ」僕は陽子を引き剥がし、椅子に座らせた。
昔から、酒は弱かったけど全然強くなってないみたいだ。
「いい女になったけど、みっともないぞ。酒に溺れちゃ」
陽子は聞いてないのか、椅子の上で下を向いてぐったりしてる。
「おい、陽子。大丈夫か?だいぶ酔っ払ってるぞ」
陽子の肩を揺すってみた。力が入らないのかぐったりしている。
完璧に酔っ払いだ。
美山さんは帰るし、陽子の酔っ払いは預けられるし・・・
とんだ一日だと僕は思った。
眠そうにしてる陽子の肩を抱えながら、店をあとにした。
外の空気を吸わせ、少し正気になったところで陽子に聞いた。
「陽子、送ってやる。家はどこだ」
陽子の言ったマンションは知っていた。わりと僕の近くのマンションだった。
タクシーを拾い、陽子のマンションに向かった。
マンションの玄関に着くと、寝ていた陽子を起こした。
完璧な酔っ払いだ。本当は何杯飲んだのか・・・
「ようこ、ようこ、着いたぞ。何号室だ?」
「・・・・・号室」
「ほら、開けてやるから鍵、貸せ」
陽子はバッグの中から鍵を渡すともたれかかってきた。
「だめぇ~先輩、部屋まで送って・・・歩けない・・・」
僕は仕方なく部屋まで送った。
部屋に入ると女の子らしい部屋だった。
リビングのテレビの上に見覚えのある写真が飾ってあった。
陽子と僕のツーショットの写真だった。
お互い4年前だから、ずいぶん若い。
「そうか・・・知らなかったな。。。陽子が俺を好きだったなんて・・・」
僕は陽子をソファに寝かせると、静かにドアを開けて帰った。
あくる日午後、陽子から電話があった。
「先輩ごめんね。昨日は・・・美山さんとのデート邪魔して・・・」
「おう、もう大丈夫か?ずいぶん死んでたぞ」
「もう1回セッテイングしてあげるから、今度は邪魔しないし・・・」
「陽子・・・・・もういい美山さんとは」
「えっ、なんで・・・」
「陽子、今度の日曜日あいてるか?」
「うん・・・・」
「デートしよう。そして聞きたいんだ。俺が『お前と結婚しよう』と言った話を」
「覚えてたの?」
「覚えてない。昨日のお前と同じように酔っていたのかも・・・」
「・・・・・」
「陽子、お前、俺のこと好きなのか?」
「うん」
「ずっと前から好きだったのか?」
「うん」
「だったら、俺達じゅうぶんデートする理由がある。。。そう思わないか?」
「うん」
「一緒にデートの約束してうれしーか?」
「うん」
「おまえ、『うん』しか言わね~な」
「うん・・・・・」
陽子が泣いていたかどうかは知らない。
飛ばされた写真のあの日と同じように春の風が吹いていた。
(完)