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「レイコの青春」 16~18

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 保育者のなかには、
いつも笑顔で優しい感じの若い女性もいましたが、
いつ行っても、にこりともしない保育者もいました。
「そんなことをすると、またぶつよ」と子どもをきつい声で叱っているのを
洩れ聞いたときには、不安を感じていました。


 その他、いろいろな疑問がありましたが、
保育の責任者と話をしても、
「いやなら、やめてくださってけっこうです」
と突き放すように言われ、それ以上は何も言えませんでした。


 娘は翌年の4月に市立の保育所に入るまでの約半年間、
その保育所に通い続けました。
新しい保育所に通いはじめると、
あれほど頻繁だった病気もぴたりとなくなりました。
表情もすっかり生き生きして、今日は保育所でこんなことがあった、
あんなことがあったと、毎日、うるさいくらい話すようになりました。
保育所が替わると、こんなにも子どもの様子が変わるものかと
びっくりしました。



 その後、私が保育施設の問題点に気づくようになったのは、
10数年もたって、会社を辞めてからです。
いじめや虐待など子どもの問題にかかわるようになり、
専門職による虐待があることを知ってからです。


 今さらですが、何も知らず、
娘を深く傷つけてしまったのではないかと後悔しました。
しかし幸いなことに、娘はその後楽しく過ごした
市立保育所のことは細かく覚えているのに、
最初に預けられた保育所のことをほとんど何も覚えていませんでした。


 娘の保育所で何があったのか、正直、今でもわかりません。
その後、「スマイルマム大和ルーム」や「小鳩幼児園」での虐待死事件、
保育施設内での乳幼児死亡事件を知って胸が痛みました。

「親が自分で子育てしないから」

「認可外保育所なんかに預けるから」など、
無責任な周囲の言葉に反発を感じました。



 親が安全な保育所を選べるほど、数は多くはないのです。
しかも公立保育所の多くは、日曜祭日や夜間は預かってくれませんし、
いつも満杯で空きがありません。
公立保育所に預けたくても条件があわないのです。
そして、保育施設は子どもの命を守ってくれるところだと信じて、
高いお金を払って保育の専門家に託しているのです。


 事件・事故が起きたとき責められるべきは、
不適切な保育で子どもを死なせてしまった施設側です。
子どもにお金をかけない国のあり方です。
 そして、もっとやりきれないのは、
子どもの死の教訓が再発防止に生かされることなく、
同種の事件・事故が今も多発しているということです。

 今回、この本を書く機会を与えていただいて、
あの頃の何も知らなかった自分に警鐘を鳴らすつもりで書きました。
大切な大切な子どもたちの命がこれ以上、奪われることがないように、
祈りを込めて書かせていただきました。

 まさか、自分たちの身にこんなことが起きるはずがないと思っている
お母さん、お父さん、そして保育者にこそ、
ぜひ読んでいただきたいと思います。


 安心して子どもを生み育てられる社会をめざして。

武田さち子・著