真夜中の公園で
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更に翌々日の夜、公園内には白黒とキジ猫が居た。しかし、茶トラ白の子猫の姿はなかった。一時間か二時間おきに何度も公園に入ったが、そのあとは白黒がじっとしているのを見ただけだった。
あの子猫がどこに行ったのか、河田は気にしている。餌を上げればいつでも会えるようになると思っていたわけではなかったが、せめて一度だけでも頭を撫ぜてみたかった。それだけが彼の望みだった。
その前日の午後のことを、河田は思い出した。彼は不動産屋へ家賃を支払いに行った際、眼鏡をかけた神経質そうな若い女の事務員に向かい、猫を飼いたいと云ってみた。
「多分、大家さんは許可しないと思いますよ」
事務員は微かに笑っているような、引きつったような表情で冷たく云った。
河田はうだつの上がらないタクシー乗務員であり「ペット可」のマンションに移れる程の収入はない。だから、その望みが叶うことはないだろう。
車を走らせていると、野良猫の姿を見ることが多い。その度に、河田は走行速度を落とす。のんびりと道路を横断する猫が多いからである。また、発情期には猫たちが道路で追い駆けっこをしていることがある。人は勿論だが、猫を轢いてしまうことだけは避けたいと思うのである。
了