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古びた手袋を身に付けて

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 リーダーに押さえつけられていたスーザンが慌てて声をかけるが、遅かった。俺はチカお嬢を軽々と持ち上げ、反りながら背後に投げ飛ばした。
 チカお嬢の体が思っていた以上に軽く、普通の女の子としか思えなかった。こんな女まで現場に出してくるヒーローズカンパニーを、俺は心底嫌いになる。
「なんでや……。悪は正義にやられるのがセオリーやんか……」
 チカお嬢は大の字のまま、天を仰ぎながらそう言った。
「俺達は悪なんかじゃない、……黒だ。勝手な事を決め付けるな!!」
「そっか、黒やったんか……。ウチ、戦う相手、間違えたみたいや……。折角、夢が、かなえてもらえるっちゅうのに……」
 言い終わるとチカお嬢はゆっくりと目を閉じた。そしてそのまま、スーザン達に抱えられて帰っていった。


 翌日、アイドル戦隊スーチーパイはデビュー記者会見を開いていた。多くのメディアが彼女達を取り上げ、『歌って踊れて戦えるアイドル』を高く評価しているようだった。ヒーローズカンパニーの広報担当は『SCP48』構想を発表、最終的には彼女達を大所帯アイドル戦隊に仕立てるつもりらしい。しかしそのメンバーの中には、赤い特攻服の女の子は見当たらなかった。



「西野隆志一級戦闘員、右の者の怪人への昇級を命ずる」
 秘密基地兼寮に、コガネムシさんの声が響く。その声を聞き終わると同時に同僚や先輩達から祝福のビールが降り注ぐ。
「すごい戦いだったようだね、西野くん。君にはぜひ、オレの下で働いてほしい」
「ハイ、コガネムシさん」
 俺は、同僚にもみくちゃにされながら、コガネムシさんと固い握手を交わした。
「ところで西野くん、怪人の名前、バトルネームは決めたかい?」
「はい、親父の夢だった怪人です。親父の付けた名前を使わせてもらいます」
「そうか、楽しみだな、それは」
 その日の夜は仕事の事も忘れ、同僚みんなと酒を飲んで明かした。


「隆志くん、聞きましたよ。怪人になれたんだってね」
「ありがとうございます、それもこれも加藤のおじさんのおかげです」
「おいおい、ブラックモンキー団らしくないぞ、こっちの人間にお礼を言うなんて」
「いや、スイマセン……」
 お袋から加藤のおじさんが入院をしている病院が近いと聞いてお見舞いにやってきた。加藤のおじさんはあの戦闘の後、第一線を退きコーチとして今もヒーローズカンパニーで働いているそうだ。
「お袋から聞きました。昔、親父と加藤さんは幼馴染だったって」
「ああ、懐かしいなぁ。よく近所の公園でヒーローごっこやってたよ」
「親父は怪人ごっこって言ってたそうです」
「ははは、だろうね。リュウちゃんは子供の頃から怪人になるって言ってたからなぁ」
「その時の親父の怪人に、なれる様がんばります」
「ほう、それじゃあ名前はやっぱり……」
「はい、怪人バッタライダーです」
「そうかい、バッタライダーねぇ。ようやくリュウちゃんの夢が叶うんだ」
 加藤のおじさんは静かに目を閉じ、昔の事を思い出している様だった。
「リュウちゃん……、君のお父さんのバッタライダーは強かったぞ、おじさんはいつも負けてた。これはすごい強敵が現れたな」
「そんな、俺はまだ駆け出しの怪人です、お手柔らかにお願いします」
「おいおい、こっちの人間に頭を下げるなって」
「ですね」
 親父の描いていた理想の怪人像は詳しくは知らない、しかしこれでいいのだと思う。
「Rrrrrr……」
「おっ? ブラックモンキー団からのお呼びかな?」
「……そうみたいです。俺、暴れて来ます。おじさんも早く元気になって、俺達に対抗してくださいね」
「ははは、分かったよ。君のお父さんとの夢の続き、まだ残ってるからね。また戦場で会おう」



 きっと親父は満足してくれている、そんな思いを胸に、俺は今日もヒーロー戦隊の奴らと戦うのだ。唯一親父が思い描いていた怪人バッタライダーの姿とは違う、古びた手袋を身に付けて。


作品名:古びた手袋を身に付けて 作家名:みゅぐ