ひとつをふたりで
彼女は昨日のことを話しだした。娘から「貰え」ってうるさかったことを。
あいつめ・・・ちゃんと言う事聞いてくれたんだ。
僕も昨日のことを話した。
アイスクリームより、ホントはビールの方がよかったんだと。
彼女は微笑みながら、自分の娘の話を聞くと
「じゃ、私がビールをおごるわ」
「いえいえ、とんでもない・・」
彼女はバーテンダーを呼ぶと、ビールを注文した。
バーテンダーは「生ビールでよろしいですか」と彼女に聞いた。
「いえ、瓶ビールでお願いします。
グラスは二つね」ときっぱり、僕の好みも聞かず注文した。
どうして、瓶ビールにこだわるの?と聞いてみたかった。そう思うと同時に
「どうして瓶ビールなの・・と思ったでしょ?」
彼女もまた、昨日の娘に似て、よく観察する人だ。
「ええ」
「私はいつかいい男と出会えたら、ひとつのビールを二人で分け合い飲みたかったの」
何か言い具合に話が進んでいる。
「ひとつのものを共有するって、素敵じゃない・・・これも」
そう言ってストラップを顔の方に近づけて揺らした。
カラカラと貝殻と赤いガラス玉が揺れて音を出した。
僕達はビールとストラップを共有しあった。
ガラスの向こうの夕立はいい具合に止んでいた。
(完)