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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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爆々ねこレース

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 ――などということは口に出さず、俺は黙ってあやめさんの言葉に耳を傾けた。
「光さまとペアを組ませていただくのは、このわたくしで御座います。何か不満な点は御座いますか?」
「滅相も御座いません。あやめさんは最強っス」
 あやめさんはニコリと笑い説明を続けた。
「レースの出場者はねこ耳を着用することが義務づけられ、ペア同士は身体の一部を手錠で繋ぐことをルールとしております」
 ねこ耳着用に手錠って、アブノーマルな世界だな……というか、なぜにそんなルールなの?
 頭の上にはてなマークがグルグルかけっこしてしまし、この質問をあやめさんに投げかけようとしたが、あやめさんは『質問は一切答えません』というオーラを全身から漲らせている。しかも殺気も混じってるし。
「質問は御座いますか、ありませんね、では次のお話を。ここからが重要なお話なのですが、このレースの出場者にはハルカ教関係者が多く出場しております。そして、このレースの裏の目的は派閥争いなので御座います。このレースで優勝を収めた派閥は他の派閥よりも優位な立場になることができ、その派閥の発言権などは一年間もの間……暗黙の了解により……絶対的な権力を持つので……御座います」
 あやめさんの身体はわなわなと震え、その口調は低く禍々しい怨念を秘めているように思えた。てゆーか、この場にいたら殺される。首をキュッとされて、絶対に屠られるぅ!
 歯軋りをしたあやめさんは修羅のごとく顔つきで、テーブルをグーでぶっ叩いた。
「あのオカマが優勝したのだよ!」
 テーブルの上が局地的な地震に襲われ、店内にいた客がいっせいに振り向いた。
 明らかに口調が違った。本性だ、本性だよ、怖いよ、怖いよこのメイドさん。
 刃物を片手に血まみれになったメイド服が頭に浮かぶ。メイドは笑っていた。恐ろしい地獄絵図だ。
 何事も無かったように席についたあやめさんは、お清まし顔で微笑んだ。
「それから、優勝者は神によって願い事を叶えてもらえるので御座います。叶えてもらえる願い事の範囲はありますが、中には恋愛成就の願いを叶えてもらった方も過去にいたそうですよ」
「その話乗った!」
「そう言うと思っておりました。光さまは鈴木明日菜に首ったけ、うふふ」
 バレていたのか。さすがはメイドさんだ。ザ・観察眼と言ったところだな。
 俺はあやめさんのまいたエサに食らいつき、レースに出場に意気込んだ。この状況から言って、レースは俺のために開かれる手で力強く叩きながら立ち上がった。
「去年と言っても過言ではない。つまり、優勝するのは、世界が誇るクールビューティな白金光だ!
 食事を済ませた俺は店内を出てすぐに、あやめさんに連れられるままに、あっちこっちそっちに連れて行かれ、新代表のお披露目会とか、二次会とか、三次会とか、カラオケとか、とにかくめくるめくスケジュールの嵐。
 俺はわけのわからんうちに、激流に流されるだけだった。
 そして、ふと気づく。
 ――あっ、家に帰んなきゃ……ま、いっか。

 レース当日、横断幕には『爆々ねこレース』と大きく書かれている。そんな名前だったのか、このレース。
 サン・ハルカ広場は人人人の人の群れ。出場者は全員ねこ耳着用で、応援している人の中にもねこ耳がいる。ちなみ、このねこ耳は街のコンビニなどで1980円で売っているらしい。
 これだけの人がねこ耳着用だと怖い。ていうか、変人奇人サーカス。って俺もその中に入ってるのか!
 俺が辺りを見回していると、あやめさんが俺の腕に手錠をかけた。まるで犯罪者扱い。
 自分の腕と俺の腕を繋いだあやめさんの顔は真剣だった。しかし、ねこ耳。だけど、萌え。
 正直に告白してやるぅ、俺はねこ耳メイドもツボだ!
 だが、自分のねこ耳は解せんな。たしかに俺は何でも似合うが……恥ずかしい。
 ふざけたレースだが、優勝者の与えられる特権はスゴイ。俺は愛を勝ち取ってみせる。俺は明日菜ちゃんの愛を俺だけのものにしてみせるぞ!
 だが、意気込み過ぎたせいか、腹が……痛い。昔から本番に弱くて、今回も腹の調子が悪い。
「光さま、大丈夫で御座いましょうか? 駄目でも、お薬を飲んででも無理やり走れば平気です」
 レースに出ないと絞めますよって感じの目だった。そんな目で見られたら、死んでも走るって。
「走るっスから、そんな目で見ないでください……」
「そんな目とはどのようでな目で御座いましょうか。優勝しないと屠るぞって目で御座いましょうか?」
 あやめさんは微笑を浮かべた。俺はそれを見て凍る。優勝しないと殺されるぅーっ!
 大丈夫だ俺。落ち着け俺。こういう時は楽しい思い出を……。
 そうだ、明日菜ちゃんと夕焼けに染まる浜辺を歩き、そこで二人は……ってこれって思い出じゃなくって妄想じゃん。
 そうだ、明日菜ちゃんだ。このレースは愛の障害物競走。この難関を乗り越えて、見事、明日菜ちゃんをゲットだぜ!
 どこからか向けられたカメラのフラッシュで俺の目が眩む。後援会のビューティフォーレディーたちだ。笑顔で手を振り返さなければ。
「がんばりますので、応援よろしくお願いします」
 腹の痛みに負けた俺は苦笑になってしまったが、それでもレディーたちは黄色い悲鳴を上げてくれた。――カッコイイって罪だな、ふっ。
 辺りを見回していると、ローズマリー&明日菜ペアもいた。俺としては心が痛む。
 想い人敵同士だなんてジンセーは過酷だなと想いつつ、はっとした。ローズマリーの見た目は女でも中身は男。まさか、二人はそういう関係なのか!?
 そう言えば、俺が明日菜ちゃんとトキメキで運命的な出逢いをした時、明日菜ちゃんは俺を見てオドオドしていたような気がする。なのに、今はローズマリーと楽しそうに、おしゃべりしちゃってるっぽいぞ!
 ――ああ、ローズマリーさま、こんなところでダメですったら、もぉ。――みたいな!
 ……今のは俺の勝手にモーソーだが、ないとは言えない。そうだ、そうに違いない。二人はデキてる。
 あの海上レストランでも、明日菜ちゃんに嫌われていたような気がした。ああ、悪夢が現実にって感じだ。
 俺の心は泥沼の底に沈み、失意と言う名の檻に拉致監禁。近くではローズマリーって名前の悪魔が見張りをしている。ビバ・ドン底!
「光さま、光さま大丈夫で御座いますか?」
 項垂れた首を持ち上げると、そこにはあやめさんの美しい顔が。そうだった、俺にはあやめさんというパートナーがいるじゃないか。あやめさんに恋愛対象を乗り換えようって話じゃなくって、あやめさんとだったら、このレース勝てる!
 そうだ、勝って恋愛成就を願うんだ!
 よ〜し、元気モリモリパワーがモリモリしてモリモリだ!
「あやめさん、このレース絶対に勝ちますから」
「なんと心強いお言葉。前代表もそんなことを申して、負けましたが」
 どうしてそこで釘を刺す?
 いや、ここで俺の脳裏にある考えが浮かぶ。
「前回のレースにもあやめさんが出てたんスか?」
「ええ、前代表とペアを組ませていただきました」
「それで、ローズマリーペアに負けたと?」
「ええ、ローズマリー&明日菜ペアに負けたので御座います」