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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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爆々ねこレース

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 イタリアのヴェネチアの町並みをパクった観光都市――水上都市アクアリウム。
 街の中心にあるサン・ハルカ広場の石畳から、赤レンガで造られた鐘楼が天をぶち抜き、そのシンプル・ザ・ベストな感じのフォルムが近くのある寺院とは対照的なビューティフルさを備えている。
 一一一メートルの鐘楼から見渡せる青空と統一された赤レンガの屋根とのコントラストを一望できてしまう古い町並みが美しい。そんな景色は思わず鳥になって羽ばたきたくなるほどで、年に何度か本当に鳥になる観光客が絶えず、塔の上には綺麗な花々が咲き誇っており、それもそれでビューティフルだった。
 今日は『ハルカ降臨祭』というお祭り騒ぎの最終日で、街のどこでも賑わいを見せ、酔った客の裸踊りもばっちり見られる。
 サン・ハルカ広場では祭りのメインイベントであるレースに出場する人々が、ねこ耳の飾りをつけて真剣な顔をしている。もちろん魚屋さんのおじさんから、怖い顔のお兄さんまでねこ耳着用だ。
 ひょんなことから、このレースの出場することになった俺は、パートナーを務めてくれているメイドさんの姫扇あやめさんと互いの腕を手錠で繋ぎ、スタートラインに立って猛烈に興奮していた。
 もちろんあやめさんは美人で興奮してしまうが、俺が興奮しているのは違う理由だ。
 このレースのルールはねこ耳を付け、パートナーと身体を手錠で繋いで、二人で協力し合いながら、夢と愛を祈りで力に変えてというハルカ教の教えに基づいたデンジャラスなレースなのだ。そして、聞いて驚け!
 このレースで勝利の栄冠を勝ち取った者には、カミサマとやらが願いごとを叶えてくれるのだ。すごいミラクルなレースだ。
 俺はこのレースで華麗なまでに見事に勝って、愛を成就させようと意気込んでいた。そして、意気込み過ぎて腹が痛くなってきた。
 腹を押さえて蒼い顔をする俺をあやめさんの瞳が見つめる。ちょっと恥ずかしい。
「光さま、大丈夫で御座いましょうか? 駄目でも、お薬を飲んででも無理やり走れば平気です」
 決して休めと言わないところがあやめさんらしい。
 苦笑いをする俺。よ〜く考えたら何で、こんな観光地でこんなレースの出場するハメになってしまったのか、今更ながら考える。俺は思う――これは神の啓示に違いない。そして、これは俺に神が与えたもうた愛の試練だ!
 昨日まではペンギン学園中等部に通う一般生徒会長だったのに、今はねこ耳なんてつけて、わけのわからない障害物競走に主出場しようとしている。こんなジンセー普通は味わえない。ちょっぴりお得気分だ。
 どこからか俺にカメラのフラッシュが嵐のように向けられ――眩しい。でも、これもファンサービスだ。俺は苦笑いをしながら手を振る。すると黄色い悲鳴が俺を取り囲む。
 新天地でのファンを見ながら、俺は思う。――カッコイイって罪だな、ふっ。
 次から次へと巻き起こるイベントは嵐のように俺を包み、流れに流せれきっていたら、いつの間にかこんな状況になってしまっていた。
 そう、思い起こせば、家の玄関を開けたら見知らぬメイドさんが立っていた時から、俺の運命は決まっていたのかもしれない。

 その日、俺こと近所の奥様方にも有名な白金光は、いつも通りの学校生活を営み、いつも通りに家に帰った。ただ、ひとつ違っていたのは、玄関開けたらそこにはメイドさんだったのだ。
 見知らぬメイドに俺は戸惑った。ドアノブに手をかけたまま硬直する俺に、ぴゅ〜りり〜っと風が吹く。
 こやつは何者だ。曲者か、泥棒か、親戚のお姉さんか誰かだったか。いやいや、百歩譲っても俺はこんな女知らん。
 紺色の生地に白レースをあしらったメイド服を着て、頭にはヘッドドレスを乗せてしまっているこの人は、どっからどう見ても『メイドさん』だ。しかも、胸の谷間にものを落としたら遭難しそうだ。
 唖然とお口あんぐりの俺は、今ごろになって思わず手に持っていたバッグを落としてしまった。それがグットタイミングな合図になったように、家の奥から両親登場。
 ニタニタ笑っている親父はメイドさんの肩に慣れ慣れしく腕を回し、親指を立ててグッドを表すポーズをした。
「よくやった不肖の息子。カッコよさだけが取り柄だったお前だが、今日と言う日は褒めてやろう。こちらにいらっしゃるのは姫扇あやめさんだ」
「はじめまして光さま。わたくしの名前は姫扇あやめと申します。今日から光さまの身の回りのお世話をさせていただきます」
 俺はこのあやめさんとやらの言葉を理解するのに数秒を要した。むしろ、理解しきれねえ!
「ちょっと待った、むしろ何があろうと待て! 身の回りの世話って何だ。事情をこと細かく、尚且つわかりやすく、短く四〇〇字以内で説明せよ!」
 早口で捲くし立てた俺に、親父が近づいて来て肩に腕を回してきやがった。しかも息が酒臭いぞ。
「お前の転校が突然決まってな、さっさとこの家を出て行け」
「はぁ? 意味わかんねえよ。てゆーか、出て行けって、親父たちは?」
「転校するのはお前だけだ。転校先ではあやめさんが面倒みてくれるから心配せずに旅立ってこい、我が息子よ。いざ、旅立ちの時だ!」
 よし、冷静になれ俺。パニック状態になるとろくなことがない。
 まず、俺の転校が決まったらしい。あとは、あとは……わかんねえ!
 意外なところに事件の謎は隠されているはずだ。物事を別の方向から考えろ。……ちょっと待て、親父がなぜ家にいる?
「親父、仕事どうしたんだよ!? 休みじゃないだろ今日?」
「会社なら課長を殴って帰って来た。一度殴ってやりたかったんだ、あのハゲ課長の頭を」
 俺は笑うしかなかった。これまでだって笑顔で何でも乗り切ってきた。生徒会長の選挙だって、笑顔で手を振ってただけでどうにかなった。だが、今日ばかりは顔が引きつる。
 頭が真っ白になりかけていた俺の腕を突然あやめさんが掴んだ。
「では、参りましょう光さま」
「どこに?」
「水上都市アクアリウムで御座います。詳しいお話は移動中にいたします」
「わお!」
 あやめさんは俺を強引に玄関の外に連れ出そうとする。俺は足を踏ん張ったが、このメイドさん只者じゃない。なんつーバカ力だ。
 俺は両親たちに手を伸ばすが、両親は俺に向かって手を振ってやがる。しかも満面の笑み。
 やばい、このままでは拉致監禁されるに違いない。憶測だが。
 俺は強引にあやめさんの腕を振り払って親父に飛び掛った。
「クソ親父が!」
「何だとバカ息子!」
 床に尻餅をついた親父の上に俺は馬乗りになり、二人は芋虫のようにゴロゴロ転がった。転がったといっても、一回転もしないうちに廊下の壁にぶつかって痛い。
 取っ組み合いの末に、俺が親父の上に馬乗りになった。
「詳しい事情を話せ!」
「バカ息子、父さんの上に乗るとはけしからんぞ。母さん助けてくれ!」
 俺と親父の視線がいっしょに母さんに向けられた。
 母さんは眩しいまでの笑顔を浮かべながら、顎に手を当てて無駄なまでのポーズを決める。さすがは元モデルだ。
「う〜ん、社会見学だと思って転校したらいいんじゃないかしら?」
「って母さん! 説明になってないし!」