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きみこいし
きみこいし
novelistID. 14439
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アルフ・ライラ・ワ・ライラ6

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だがその時、走り込むカラムの足下に矢が打ち込まれた。続く矢が腕を貫き、痛みにカラムは剣を取り落とす。
「ぐっ、誰だ!」
――――この闇の中を、カラムだけを狙って?!何という腕前だろうか。
赤い血が砂の大地にしたたり落ちる。傷口をかばいながらも、カラムは矢が飛んできた方向に目を走らせる。
そこには。
立ち並ぶ遺跡の柱。その傍らに、白く輝く月を背に一人の若者が弓をかまえていた。ギリギリと引き絞られた弓、その鏃はまっすぐカラムの心臓を狙い定めている。
「動くな」
「く、お前、何者だ!」
「貴様らに名乗る名など、持ち合わせていない」
若者の声を合図に、軍馬のいななき、男たちの鬨の声、剣がふれあう音が響き渡る。そして、夜のとばりを脱ぎ捨てて、ずらりと現れたのは屈強な兵士たち。そのいずれの目にも、堅牢な意志の光がある。訓練を積み重ねた、精鋭の兵士たちだ。
「ここはすでに我々が包囲した、命が惜しくば武器を捨て、投降せよ!」
忽然と現れた兵士たちに、誰もが思わず息をのむ。
そして布陣が完了すると、兵士たちの中からひときわ鋭い身のこなしの男が若者に駆け寄り膝を折る。
「ご命令を」
若者は鷹揚にうなずくと、弓をあずけ腰の長刀をスラリとぬく。そして、朗々と響く声で命を下した。
「砂漠に巣くう毒虫どもを、一匹残らずひっとらえよ!」
兵士たちが斬りかかる。正規の訓練を受けた兵士だ。ならず者とは格が違う。ましてや多勢に無勢。瞬く間に盗賊どもは斬り伏せられ、捕縛され、投降し、または敗走を始めた。
「くそっ!」
混乱に背を向けて走り出したカラムを見つけ、あわててイオは飛びかかった。
「カラム!みんなの魔法をといて!!」
「離せ!」
「おっと。させるか」
しがみつくイオに振りかざした長刀をジャハールが難なくひねりとり、カラムを蹴り飛ばす。その拍子に懐から香炉が転がり出た。
「おい、イオ。その香炉を使え」
「やめろっ!よせ!!」
「これ?!香炉の精霊よ、みんなにかけた魔法を今すぐ解いて」
『かしこまりました、ご主人さま』
承諾の言葉とともに、サマルたちに漂っていた煙が晴れる。そして、
「・・・ここは?」
「何があったの?そうだわ!襲撃が!!」
「サマル!よかった、気がついた」
「イオ・・・何があったの?カラム!」
目を覚ました舞姫たちだったが、あたりの乱戦に気づくと悲鳴をあげる。
「みんな、こっちへ。ジャハール、お願い。みんなを守って」
「めんどくせぇ」
嫌々ながらも、魔神はこちらに向かってくる敵を叩きのめしていく。そうこうする間にも、
着実に兵士たちは盗賊の数を減らしていく。彼らの腕は確かなもので、盗賊は数合も切り結ばぬうちに剣を折られ、または斬り伏せられている。
「すごい。あの人たち、いったい・・・」
瞬く間に決着はつき、あたりにはうめき声をあげて累々と転がる盗賊たちの姿があった。



砦を制圧し居並ぶ兵士たちの間を抜け、若者がこちらに歩いてくる。
「みな、無事か?」
「は、はい。危ない所を助けていただき、お礼のしようもございません」
「せめてお名前を・・・」
尊い身分であることは、兵士たちが示す忠誠の眼差し、敬う態度、そして若者の豪奢な戦支度で明らかだ。あわてて膝をつき、感謝の言葉を紡ぐ舞姫たちに、若者は鷹揚に頷く。
「わたしは、シンシネア王国マジーム・アル・ムタワーリ・アッ・ラシード王が第一子、ハキム・アル・サミール・アッ・ラシードだ」
「ハ、ハキム皇太子殿下!」
身分が高いなどという話ではない、あわてて皆がその場にひれ伏す。イオも急いでジャハールをひっぱり、それにならった。
「見たところ、そなたたちは舞手のようだが・・・」
「はい。わたくしたちは隊商に従い東より旅をしてきましたが、明日には都というところで襲われました」
「妖しげな術で眠らされ、商人たち男手は砂漠に置き去りにされ、わたくしたち女と荷駄だけが連れてこられたようです」
「そうか。では、わたしたちが都まで送ろう」
「王子!」
「よい、我々も都へ帰るところだ。盗賊に襲われ、さぞかし心許ないことだろう。旅人の安全を守るのも我らのつとめ。遠慮はいらない、一緒に来なさい」
ここまで言われて断れるはずもない。一も二もなく舞姫たちは頷いたのだった。
恐縮する彼女たちに微笑むと、ふと王子は口をひらいた。
「そういえば、砂漠に不思議な灯りを見つけてね。それで、ここに来たのだ。誰か心当たりの者はいないか?」
王子の言葉に皆が首をかしげる中で、おずおずと手を上げる者がいた。イオだ。
「あ、あの・・・わたしです」
「灯り?おまえ、何こそこそしてるのかと思えば。そんなことしてたのか」
呆れた表情のジャハールに、イオは唇をかむ。
――――どうせ、たいした魔法じゃないわよ。
けれど、盗賊たちの後をつけ、この砦に来る間、イオはこっそりと魔法で『灯り』を落としていったのだ。
もしかしたら、後から目を覚ました商人たちが追いかけてくるのではないかと。
「きみが?」
「はい、あの、少々魔法を学んでおりましたので」
「そうか、よくやったね。あの灯りがなければ、我らも間に合わなかっただろう」
「は、あり、ありがとうございます」
王子なんて身分の存在ににっこりと微笑みかけられ、イオはしどろもどろだ。
「ふん、お前たちが来なくても、おれだけで十分だったぜ」
「ジャハール、しっ!」
「ぐぅ」
「それから、盗賊どもを片付けるにあたっては、その青年がよい働きをしてくれた。よい腕だな」
「・・・」
不遜にも王子ににらみ返すジャハールに、イオはあわてて魔神の足を踏みつけた。
「っ、てめ!」
睨み付けるジャハールに、目でしかりつける。そんな二人の様子にふっと笑うと王子は軍に向き直る。忠実な兵士が跪く。
「王子、帰還の準備整いましてございます」
「そうか、では行こう」
こうして兵士たちの護衛という格別の扱いをうけ、イオたちの隊商は都に行くこととなった。



ジャハールを連れて隊列のしんがりまでこっそりと移動し、人目がないことを確認すると、イオは懐から香炉を取り出した。先ほどのいざこざの際に、とっさに懐に隠していたのだ。
「ジャハール」
目でうながすと、魔神はおもしろくないといった顔つきで、しぶしぶ口をひらく。
「こすってみろ」
ジャハールの言うとおり、袖口で香炉を軽くこする。すると、香炉から少量の煙がたちのぼった。煙はゆらゆらとあたりに漂っていたが、次第に形を成していく。そうして、できあがったのは火の玉のような紫煙のかたまりだった。かろうじて目や口らしきものが見てとれる。
「あなたが、その、精霊?」
『そうだ、我が名はマムルーク。幻惑と微睡を司る、香炉に封じられし煙の精霊よ。気安い口をきくな。小娘が』
ギロリと睨み付け、精一杯威厳を示そうとしているのだろうが、その姿ではいささか難しい。気にする様子もなくイオは続ける。
「あのね、お願いがあるの。この指輪を外してくれない?」
『はぁ?!おい小娘・・・いや、お嬢さん、お嬢様?』
イオの背後にたたずむジャハールの存在を思い出したのか、精霊は慌てて知る限りの丁寧な言葉で返答する。先ほどまでとはうってかわった態度である。
「イオでいいよ」