片山レンジャー 前編
それは、斎藤さんが越してきた当日。片山レンジャーは池にある二つの石に土下座して、家主の斎藤吾郎さん(42)に頼み込む。
「片山池が無くなれば、僕ヒーローじゃなくなるんです!お願いします!ここだけは、片山池として残して下さい!!」
物凄い勢いの土下座に魅せられ、吾郎さんは言った。
「飯いらんなら良いぞ」
「あ、おにぎり一つくらい恵んで頂ければ...」
「よし。今日からこの池、斎藤池だな」
「ああ!冗談です!何も無しで大丈夫!僕、光合成したい年頃なんです!!」
「うむ」
頷いた吾郎さんに、唯一の家族にして一人娘の恵子ちゃん(17)が助け舟を出す。
「お父さん、いじめちゃ可哀相だよ」
「そうか?だが俺はヒーローが嫌いなのだ」
「あたしも...でもこの人、悪い奴じゃなそうよ」
「はい!人の良さなら負けません!お金貸した翌日に、逃げられた事もありました!」
「あらまぁ」
目を丸くする恵子ちゃん。
「ふんっ」
鼻で笑う吾郎さん。しかし、二人は片山レンジャーの必死さに苦笑し、了解を表した。
「ね、良いんじゃない?害も無さそうだし」
「そうだな。じゃあ片山レンジャー、あんたの飯はおむすび一個でいいな」
「おおー、ありがとうございます!あ、でも、出来れば、月一でお酒を...」
「よし解った。今日からここは斎藤池だな」
「ごめんなさい!調子に乗りました!!」
「うむ」
こうして、片山レンジャーと斎藤さん一家は、奇妙な共同生活を始めた。
作品名:片山レンジャー 前編 作家名:なっちょん