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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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すみれを摘んだ

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そして、私は今に至る。ああ、愚かな私は「なぜ好きか」などと聞いてしまう。けれど、もう口から零れるほど言葉があふれていたのだ。
思いは心と体にいっぱいになってとどめられない。





あなたは気付いたのだろう、私があなたを愛していないことを。だから私を「好き」と言った。私を愛することもできないのに。

訳が分からない。なんだか泣きたくなってきた。それって私はとても哀れな女なのではないだろうか。私だって人間だ、愛されたいと願うだろう、そうじゃなくても愛されないと分かっていると辛いに決まっている。

じゃあ、私はこの男を愛しているのか? そんなの分からない誰にも分かる訳ないんだ。ただ、そこにいたから、傍に近付いてきたから、ただ目に留まったから捕まえた。そこに咲いていた花を摘んだようなものだ。摘まれたのは自分かもしれなかった。手折られた花は花瓶の中に活けられて、すぐに死んでしまう。私はすみれの花のように美しく可憐にはなれない。強くもなれない。ただの花。ただの人間。

傍にいてくれるなら誰でもよかったし、いないのならどうでもよかった。この男が目の前からいなくなるなら私はすべてを忘れる。けれど、男はそばにいる。私の手もその裾を捕まえて離そうとはしていない。これではどうしようもないではないか。

私はなんだか心がぐちゃぐちゃになって、濁ってまた透きとおって、目から水となって流れ落ちた。
ぽた、ぽたとつぎつぎ零れ落ちる。人間っていうのは本当に不思議な生き物だ。

男は私の涙を見て、少し不思議そうな顔をした。

「好き」

「好きだよ、愛子」

相変わらず「好き」と唇から吐いて、私が大嫌いな私の名前を呼んだ。愛されることのない愛子なんて、安直な皮肉すぎて笑い話にもならない。ああ、やっぱりくだらない。

私はこの男を好きにはなれない。私はこの男を愛することもない。けれど情は持つし、愛着もできるし、私の心もこの男の空気に溶けてゆく。それと愛情をどう区別できるというのだ。

壊れた機械のように「好き」と繰り返す男と、壊れた機械のように目から水を零し続ける私。
もう、どうでもいいじゃないか。
ただの衝動。

ただ、そばにいればいい。お前は私のそばにいればいい。そうしたら私もお前を摘んであげよう。この手で捕まえて花瓶に活けてあげよう。



私も、すみれの花は好きなんだ。
作品名:すみれを摘んだ 作家名:冬野すいみ