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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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すみれを摘んだ

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あなたは気付いたのだろう。私があなたを愛していないことを。好きでも嫌いでもなく、ただ、そこにあるからこの手で掴んでいるだけ。けれど、そんな感情に違いなんてあるのだろうか。目に見えないのだから何も分かりはしない。感情なんて嘘ばかり。ただの衝動。捕まえた物を離さない。そばにいる。だから掴んでいる。ただそれだけのこと。





私はただぼんやりとあなたを見ていた。あなたは私のことを見ないまま、窓の外を眺めていた。

目の前の男はなぜか私のそばにいて、なぜか私を「好き」という言葉を使って捕えて動けなくしてしまった。それならば、私はただそばに寄ってきたこの変な人間を捕えてしまおう。だって仕方がないじゃないか。すべてどうしようもない。
けれど、私の意思であり、衝動。これは本能。そうやって自分に言い聞かせないと忘れてしまいそうになる。



この男は私を「好き」などと言う。そんなもの嘘だろうと私は思う。だってまるで感情がこもっていない。感情を否定した私が言うのもおかしいけれど、言葉が空虚すぎる。言っている本人も意味をつかみかねたような困った顔をしている。自分で気づいているのかどうか。

私の顔は特別美しい訳ではないが、可愛いなどとも評されるのでそれを好きと言うのならまあ分かる(それがお世辞で自信過剰なら知らない)。胸はあまり大きくもないのでそれを好んでいるとは思えない。性格は微妙なところだろう。常識が合って優しさや情緒も人並みという気もするが、理屈っぽく冷めてて良いとも思えない。やはり嫌な感じだ。まあ、人の好みなどいろいろなのだから私を好む人間がいてもそんなにおかしくはない。

けれど、この男は私を好きかどうかも分からないのだ。そのくせに「好き」などと言う言葉を使えばいいと思っている。その言葉がすべてを解決してくれる答えだとでも言うのだろうか。なんてくだらないんだろう。
そして、私はこのくだらない男のそばにいて、その裾をつかんで捕まえている。「好き」の言葉に捕らわれて動けないのかもしれない。動くことも、手を離すことも結局何もかもが面倒だったということか。そこにある私の何らかの思いは踏み潰してもう知らない。ああ、やはりとてもくだらない。
ときどき自分の意思を忘れそうになる。
作品名:すみれを摘んだ 作家名:冬野すいみ