日々平穏
そして外に出てみれば確かに捕獲されたようなゴムソンが寂しそうにガチャガチャの入れ物に入って夜を過ごしていた。このまま日中を迎えれば死ねといっているようなものだ。これでは昆虫虐待だと千尋は娘に話しかけた。本当は千尋だって子供の頃は似たようなことを多々行ってはきたが、諭す者がいてのことだ。もう自分がそういった立場なのだとしんみり悟りながらその夜は過ぎていく。
「ザリクソン、どうしてるかな?」
ちょっと待て、そんな会話・・・数日前になかったかと千尋が頬を歪めた。いや、気のせいだ。気のせいだと思いたい。座右の銘は『日々平穏』と何年も言い続けた千尋は嫌な予感しかしない娘の発言を無視することにした。時間帯はいつぞやと同じ夜。だが娘は何枚も上手だ。今回は余計な時間を与えなかったのだから。
「ザリクソンはザリガニだよ!捕ってきた!大丈夫、餌はチクワだって!じぃちゃんが言ってた!」
「全然大丈夫じゃない、いろいろな意味で」
今日も素敵に夜は更けていく。多分楽しそうに、それでいて仲よさそうに。それらを和樹はテレビに耳を傾けながら漫画を読みつつ宥めていった。
「チクワはパパも好きだなー」
以心伝心0%な会話とはまさにこのこと。相変わらずな家族はやっぱり相変わらずだけど、その相変わらずなのがいいのだろう、きっと。
「チクワはありません。飼う予定も買う予定もありませんからね!」