heaps of corpses
第一章『少女に出会った青年』in the EAST
どうする。
俺は路地の隅で小さく溜息をついた。通りすがる奴らは、俺のことを目の端にすら止めやしねぇ。興味がないというより、もう見慣れてしまって、漆喰の壁やレンガ塀と同じように、風景の一部でしかないのだろう。
第一、こんな風に道のど真ん中を歩くのは、大抵が貴民《きみん》に仕えるような平民《へいみん》ばかり。
俺らの様な愚民《ぐみん》は、よほどの田舎町でない限り、道の端を這いつくばるのだ。そんな物に目を向ければ、自分の目が穢れるとでも思っているのかもしれない。
路には人だかり。パフォーマンスをしている道化師《ピエロ》がジャグリングの棒を受け損ねた。
チラリ、と右に目をやって、俺の近くに座り込んでいる、十にもみたない小さな女のガキを見つける。捨て子だろう。
俺は少し嫌な気分になった。その衣装からそれなりの家にいたのだろうが、家が苦しくなって捨てられたクチか。
爵位剥奪やら事業失敗やらで、貴民が子供を捨てる事もある。少しでも生きていけるよう、つまりは誰かに拾われるよう、少しでも上等な服を着せて路上に放り出していくのだ。
ちっとも動かないそれは死んでいるのだろうか。
死んでいるなら服やその持ち物だけ奪われ、生きていれば人攫いや娼館に連れていかれるのがオチだ。さっきもそんな奴らが寄ろうとしていたので、軽く追い払った。
死体から物を剥ぐ姿やヒトを売買する姿を、俺は見たくない。きれいごとなんかじゃなく、単に目の前でやられると不快なだけだ。
人身売買を無くそうと思うほど俺は正義感にも溢れちゃあいないし、そんな甘っちょろい人間でもないんだ。
作品名:heaps of corpses 作家名:コゴトノヤ