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もう一度やり直せる?

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 サヤカは、子猫のような悲鳴をあげ、身を屈め、床に置いてあった服で下着姿の肌を隠した。コジマは呆気にとられて、
「取って食いはしないよ」と笑った。
「それより早く出掛けよう」
 コジマは、サヤカがうなずくのを見届けもせず、くるりと背を向け部屋を出た。

 二人を乗せた車は、矢のように次々と追越しながら海岸線を走った。
「まるで暴走族ね」
 素早く変わる風景にサヤカははしゃいだ。
「そうかい」
 コジマはまんざらでも顔をした。
「止めて、あそこに」
 コジマは急ブレーキをかけた。車は青い煙を上げ、尻を振りながら止まった。
「何が見える」
 コジマの眼には、青い海以外、何も見えなかった。サヤカはドアを開け、外に出た。ガードレールの傍に立った。コジマも車を出て、サヤカの傍に行った。
 サヤカは近くまで迫る山を背にしている。コジマは反対に海を背にして並んで山を観た。山肌は初々しい緑に包まれている。そして、春風が優しく木葉を揺らしている。
「もうじき夏ね」
「そうだな、冬が終わったかと思ったら、春になり、あっという間に過ぎ去る。まるで夢のように時間が過ぎていく」
 コジマは振り返ってサヤカを見た。彼女は海を見ている。白い服を着ているサヤカは吹き寄せる風のせいで身体の輪郭が分かる。今にも開かんとする白い花のように美しい。
「昨日、二十一歳になったの」
「そりゃ、おめでとう」、
 客船であろうか、海を白い船が過る。けれども、サヤカは海のことよりも、コジマのことを考えていた。ふと、そんなことを考えている自分がおかしくて、サヤカはくすっと笑った。
「何がおかしい」
「別に」といって、くるりと背を向けた。
「おかしな娘だ」
「プレゼント頂戴」
「君にあげられるものが、僕にあれば」
 サヤカはいたずらっぽい眼で、コジマを一瞥すると、また海を見た。
「東京に帰る」
「その方がいい」
「実を言うと、つい最近、子供をおろしたの」
 コジマは何も言わなかった。
「何だか、今になって後悔している。大きな罪を犯したようで。……もう一度やり直せる?」
「いつでもやり直せるさ」
「やり直して、もう一度、子供を作りたい……変?」
「変だ。でも、それが人間というものだ。自分が思うように生きればいい」

作品名:もう一度やり直せる? 作家名:楡井英夫