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フライド(ポテト+チキン)

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 十二月二十一日、北海道の旭川の気候では、珍しく雨が降っている。それは雪化粧を汚くし、台無しにしてしまう。
 夕方、僕(17)はロングコートを羽織り、ある女の子を待っている。その子の家付近にある竹下商店の軒下のベンチに座りながら。先程、その子の家に電話したのだが、アルバイトでまだ帰っていないのである。「僕がどれほど君を好きか、証明してあげるよ」なんて気持ちにはなったものの、とにかく寒いのだ。その子が来て、その子の家にお邪魔して、温かいものを食べて、二人でベッドに寝る、なんて想像はできる。けれど、寒いからと言って、熱湯を被ったりはしない。つまり、僕にはそんな勇気もないのである。その子とは、友達でもなく、あまり話したこともなく、何ら関係も無い。廊下、グランドで見かけるうちに、好きになってしまったのだ。
 みんな、どうなんだろう?「好き」と露わにするのは、恥ずかしくないかい?僕にしたら、アメリカのアクション映画「ダイハード」くらいに、ハラハラドキドキである。僕は普段学校では、ほとんど女の子とは話さない。注意深く言おう。話せないのではなく話さないのだ。「もう、誓いなんて忘れているよ」。誓いとは、中学二年生の時に、好きだった子が転校した後、僕が勝手に「もう女の子とは話さない。好きになったら困るから。僕は死ぬまで、××ちゃんを思っているから」と誓ったのだ。それから、女の子とはあまり話さなくなったのは確かである。
 外は薄暗くなってきている。相変わらずの雨。僕はタバコをくわえ、火を点ける。周辺を見渡すも、あの子の気配はない。
 僕はリビドーに駆られ、バスに乗って、ここへやって来たのだ。僕には、他人には言えない慢心がある。その子も僕のことが好きなのでは、と。待っているのだ、と。「僕も待ってるからね。ミンちゃん(17)」。あの悲しみの涙を嬉しい涙に変えるのだ。今日、今、これから。
 僕が高一の冬のある日。体育の柔道の時間が終わり、教室に戻り、机を整理していると、一枚の紙切れが入っている。
「放課後、1―8の教室で待っています」
僕はすぐにラブレターだと認識するが、まさか、僕に?宛名も差出人の名前も無い。僕は、机を間違いたんじゃ、などと躊躇していると、続々と男子が教室に戻ってくる。僕は困り、慌ててその手紙をビリビリに破き、ごみ箱へ投げる。
 その放課後、僕は部活前に友達と廊下で喋っていると、ミンちゃんとその女の子友達四名が、僕の教室へ入っていく。「ミンちゃん、今日も可愛いな」と心底思っていると、「えっ!?」。教室からミンちゃんの泣き声が聞こえる。「えっ!?もしかして!」。ミンちゃん達が教室から出てくる。僕の喋りは中断。時が止まったかのように。ミンちゃんは僕に向かって、
「バカ!」
ミンちゃんには、本当に涙が出ている。僕は追いかけ、謝ろうとする気持ちがあるのだが、何故か横の友達とまた話し始める。
 あの時、僕がもっと冷静になり、ミンちゃんの情熱とも言うべき勇気を感じ取ったならば、素直に話かけ、謝ったとも思える。僕はとても小心者。コーヒーの空き缶を灰皿にする。
 完全に夜になる。街灯が寂しく雨を写す。竹下商店はまだ開いている。ミンちゃんは必ずこの交差点に来て、右折するはずなのだ。
 僕は高校二年生。一応進学校ではある。この高校に入って、驚いたことがある。同学年には美人が多いのだ。ミンちゃんをはじめ、どこのクラスにも二、三人はいるのである。ミンちゃんは、わし鼻というウィークポイントはあるが、顔立ちは綺麗で、性格はとても明るい。女子テニス部のマネージャーをしている。名は美々という。みんながミンちゃんと呼ぶのだ。
 青春真っ最中。恋の告白っていうものは、自分の生きる範囲を広げるようなものだ。僕は、ミンちゃんと共有できる、と考えると、幸福感でいっぱいになる。もし失敗すれば、それは恥ずかしいことになるが、僕もミンちゃんにしているので、引き分けになる。
 僕は竹下商店の時計を覗き見すると、九時半である。雨はややみぞれになってきている。「ここまで待ったなら、必ずこの思いを告げよう」。五本目のタバコに火を点ける。
 腹空いたなぁ、と思っている時である。こちらに向かって歩いてくる、スカートをはいている女の子が見える。僕は、タバコを消し、冷たい両手を摩擦する。
 ミンちゃんである。間違いなく。僕は立ち上がり、顔を合わせる。ミンちゃんも気付く。「おい、おい、どこへ行ったの。さっきの度胸は!」。声も出ない、脚も動かない。奇妙にも瞳だけはミンちゃんを離してはいない。ミンちゃんも立ち止まる。その時、一台の私営バスが通り、一瞬二人を裂く。僕はまだ立ったまま。一歩二歩と、対のミンちゃんの方へ近づく。バスが通り過ぎると、ミンちゃんは角を曲がり、僕に背を見せて遠くになっていく。こうなると、僕の心は萎み、ネガティブになり、追いかけるなんてできなくなる。よく、「やれるだけのことはやった」と言うが、この今の僕に、そんな言葉は言えるだろうか。はっきり言って何もしていない。
 みぞれが雪になる。芯から冷えている僕。まだ熱い何かは失っていない。正義感なんてエゴだと思う。自分を自分で善人とするからである。格好をつける僕は、ミンちゃんと付き合いたいという欲望よりも、彷徨っているだろう彼女の気持ちをどうにかしてやりたい、と思うのだ。何故、そこまで言い訳するのだろうか。
 僕はすぐ傍にある電話ボックスに入る。
「娘は今お風呂に入っているのですが・・・」
僕は涙が出てくる。「今日はもう帰ろうか」。
バスはもう無い。家までの距離は10キロ。深々と降る水っぽい雪の中、気分はガタ落ちで、歩いて帰らなければならない。
 僕はツインハープという橋を越え、緑が丘という町に入る。教会があるロマンチック街道を歩いていると、
「三浦君!」
と後から呼ぶ大きな声が。僕は突如胸苦しくなる。「えっ、ミンちゃん」。まだ呼んでいる。僕は踵を返し、声の元へ走る。薄ら模様でミンちゃんではない。声も違う。隣のクラスの真紀(17)である。
「三浦君、何してるの?」
「・・・、いや・・・」
真紀は左手でコンビニの袋を下げ、右手で僕の冷え切った顔を触る。真紀は、
「こんな夜にどこに行ってたの?三浦君の家って全然ここらへんじゃないじゃん」
と心配そうな眼差しで言う。
「・・・・・・」
「寒いし、うちに行こう?」
僕は真紀のおかげで、幾分安堵が巡るが、急に寒気も催してくる。僕は、真紀だって友達でもない。「ムシャクシャして、自棄になって、真紀の家にいくのではないから」。
 真紀の部屋にはテレビがある。ぬいぐるみがあちらこちらにあり、女の子らしい、清潔な部屋である。真紀は落ち着いていて、僕に対しても、そんなに気遣いはしていないようだ。僕がソファーに座っていると、真紀はあったかいお茶を持ってくる。
「で、何してたの?」
「待ち伏せ」
「誰を?」
「わかってるくせに」
「わからないよ。誰?ミンちゃん?」
「当たり」
「それで?」
「結局、話もできなかったさ」
真紀は自分の勉強机に座り、笑顔でお茶をすすっている。真紀も美形である。でも、何故こんなに親しみがある感じがするのだろう。真紀もそうだと思う。