小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

クラインガルテンに陽は落ちて

INDEX|15ページ/20ページ|

次のページ前のページ
 

第8章 ポトフ



「柚木さんのニンジンとインゲンを少し分けてくださいね」
「どうぞお好きなだけ」
「私のマンション、お分かりですよね?」
「ええ、パンクのときご一緒しましたから」
「501号室です。ちょっと準備したいので30分経ったら来て下さい」
「本当にいいんですか?」
「お待ちしてます」
 私は柚木が収穫したニンジンとインゲンを抱えて、一足先にマンションに戻った。そして今朝早起きして作ったポトフの鍋に火を入れた。
 麦藁帽子を脱ぎ、ひとつに纏めた髪をほどき、化粧を直した。そして鏡に映った自分に問いかけた。
「自分がこれからやろうとしていることをちゃんと分かってる?単身赴任の夫の留守中に家庭を持つ男を、自宅に招き入れようとしているのよ。ほんの4ヶ月前に出会った男。信頼できる男なのかどうかだって分かりはしないわ」
 私は今更ながら大胆になった自分に驚いていた。
 エアコンは苦手なので普段は使わないが、今日は柚木のために弱めに入れて部屋を冷やした。西側の窓からは夕方の陽が差し込み、テーブルの脚の影を床に写した。私は簡単なテーブルセッティングをしてから柚木が来るのを待った。時間差をつけたのは準備のためだけではない。近所の目が少し気になったことは否めなかった。
 こんなにドキドキしながら人を待つなんて何年ぶりだろう。そわそわするってこういうことだったんだ。私は遠い昔の懐かしい感覚を思い出していた。
 ドアのチャイムがピンポーンと鳴った。私はモニターで柚木の姿を確認するとインタホンに向かって「どうぞ」と言って、エントランスのオートドアを開けるボタンを押した。エレベータに乗ってこの部屋に来るまで1分もかからないだろう。玄関のドアを少し開けると、近づいて来る足音が聞こえた。柚木は脱いだキャップに缶ビールを2本入れて、少しはにかみながらやって来た。