文明開花〜櫻座物語〜
刹那。風が止まった。
「…いや、え…あ。間違えました、すみません。」
会ったことなんて無いですよね。
誠一郎は起き上がり、埃を掃って女性の方に歩みよる。するとどくん、と心臓が鳴った。
「………いいえ。こちらこそ、勝手に入ってしまいすみません。」
女性は眉を器用に下げ、微笑んだ。綺麗だと思った。甘い、金木犀の匂いがわずかにする。
でも何処か、不思議な雰囲気が女性にあった。
「何かご用ですか?」
あいにく誠一郎はめんどくさがり屋だった。細かいことなど気にしてはいられないのだ。
女性はまた柔らかく微笑んで言った。
「えぇ、あなたと…その後ろの君に少し」
誠一郎はサッと振り向く。そこには凄く不機嫌そうな風雅がいた。
居るのは風雅以外考えられないけれど。
「誠一郎よ、その女は誰だ。隠れてつくった愛人か?」
「ちげーよ。てかお前は俺の女房か。」
「すまぬな。あいにく私は同性愛好者ではない。」
「律儀に返さなくていい。」
「そうか。で、その女は愛人ではないのなら誰だ?」
作品名:文明開花〜櫻座物語〜 作家名:夏華