文明開花〜櫻座物語〜
街は外国の文化の影響により一変し、華やかな赤色となった。
洋服やレンガ造りの建物、馬車や夜道を照らす街灯。
様々なモノが新しく、変化した。
そうやって変わっていくのは悪くない。
でもどんなにモノや外見が変わっても、人のココロはそう簡単には変わらない。
そんなふうに思ってしまう自分はおかしいのだろうか。
部屋に暖かな涼しい風が吹く。
ちょんまげにするために伸ばしていた髪が今は解かれ、風になびく。
日本は文明開化で洋式の建物が多くなったが、誠一郎はお金もなくひっそりとした森の中に今では懐かしく感じられてしまう和式の、木造建築の家に住んでいる。
誠一郎も同居人も今の生活に満足している。
元農民の誠一郎に姓は無い。
誠一郎の村は村長以外姓を名乗ることはなかった。
それが一般常識。村での普通だった。
すると季節ハズレもいいところで、風鈴が可愛らしくちりん、となった。
俺はそれが妙に心地よくてまぶたを閉じた。
しかしそれは叶わぬものとなってしまう。
「なんだ貴様。だらしがないぞ。しゃきっとしないか!」
奥の部屋でせかせかと掃除をしていたはずの同居人に至近距離で怒鳴られたのだ。
あー・・・耳が痛い。
俺は寝返りをうち、同居人に背を向けた。
「うるせぇなぁ・・・寝起きで辛いんだよ。あほ風雅。」
「あほはいらん。それと寝起きが辛いのは昨夜の夜更しがいかんのだ。自業自得だ誠一郎?」
「‥‥‥!お前ッ、あん時起きてたのかよ!」
昨晩のことを知られていたことに焦った誠一郎は立ち上がり、風雅の胸ぐらをグッ、と掴む。
洋服の襟のある上着ごとつかまれて苦しいハズなのに自分が有利だと分かっている風雅は表情を変えずに鼻で笑った。
「あぁ、もちろん。お前が楽しそうに星を見て一人夜空に向かって話かけていたことを俺はちゃんと知っているぞ。」
作品名:文明開花〜櫻座物語〜 作家名:夏華