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忘れていた風景

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忘れ得ぬ夜



 美里が予約してくれていた宿泊施設に到着した。三階建の瀟洒な建物の前が駐車場になっていた。ロビーに数人の和服の女性たちが、整列して中野たちを出迎えた。
そのうちの一人に、美里は名前を告げた。
「宿泊を予約した中野です」
と、美里は云った。中野は声を押し殺しながら、思わず笑った。「親子ごっこ」の徹底振りが余りにもおかしかった。
中野の様子に気付いた美里は、珍しく不機嫌な顔になった。フロントで美里が名前を書いたあと、案内されたのは三階の豪華な和室で、そこは二十四畳もの広さだった。
中野はその部屋を見て感動し、茫然とした。中央に大型の掘り炬燵があり、壁には湖面に映る紅葉の風景の、大きな日本画が飾られていた。それは、無名の画家が描いたものではなかった。
女性従業員が和菓子と茶を置いて去ったあと、ふたりは炬燵に入った。中野は熱いおしぼりで顔を拭いた。
「贅沢だね。だだっ広いね。夢を見ているようだよ」
中野は四方を見渡しながら云った。
「そうね。なかなかの豪華さよね」
「殿様気分だ。お姫様もいるし」
中野は笑顔になった。
作品名:忘れていた風景 作家名:マナーモード