「レイコの青春」 13~15
母親たちはまずは、市役所の窓口に相談に訪れます。
市役所福祉課の窓口の担当者は、
「保育に欠ける子どもであれば、保育園はこれを保育しなければならない、
という規則がありますので、まずは近所の公立保育園に行って
頼んでみてはどうですか。」
と、アドバイスだけをしてくれます。
入所基準や運営に関しては、それぞれの保育園での自立性があるために、
公立と言えども、市役所で入所手続きをすることはできません。
それぞれの母親が市役所の助言を頼りに、子どもを背負って、
自宅の近くにある、それぞれの公立保育園へ足を運びます。
しかし・・・
「あなた方は、
テレビやピアノやダイヤを買いたいために、
共働きをしているんでしょうから、
子どもが大切ならば、すぐに、勤めをやめたらどうですか。」
「ゼロ歳児は、預かれません」
「長時間保育には、対応が出来ません。」
などと、ことごとく断られてしまいます。
乳幼児や3歳未満の幼児をかかえながら、昼間働いているお母さんたちは、
こうして一様に、苦い体験をあちこちで味いつくしてきます。
こうした事例の最大の根拠とされたのは、1960年代にはじまった
高度経済成長政策時代に、意図的にうみ出され流布されてきた
「3歳児の神話」という幼児教育に関する独断的な学説でした。
その時代の日本大百科事典で、「育児」の項には、
「三歳児未満は、親子間の情緒的な関係を緊密にする時期。」
と強調をされています。
さらに、三歳までに十分な母子間の緊密な情緒的関係が
形成されない場合には、「情緒の発達などが遅れ、
情緒の不安定は次第に強くなる」という記述さえ残っています。
それらの理由として、次の3つが揚げられています。
1. 子供の成長にとって幼少期が(きわめて)重要である。
2. この大切な時期は、生みの母親が養育に専念しなければならない。
なぜならお腹を痛めたわが子に対する母の愛情は、
子供にとって最善だからである。
3. 母親が就労などの理由で育児に専念しないと、将来子供の発達に
悪い影響を残す場合がある。
作品名:「レイコの青春」 13~15 作家名:落合順平