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RED+DATE+BOOK005

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「桐生さん!ただ今!」

「お帰りなさい、亮君。」

ホテルに篭りっぱなしの記憶しかない林間学校が終わった。

「じゃあ、春明日な!」

門まで送ってくれた春に手を振って車に乗り込む。

明日から夏休み。

しかし俺たちは部活がある。

楓は後何日かホテルに泊まるみたいだからあっちで別れを告げた。

「如何でしたか?林間学校は。」

「それがさー・・・。」

そう続けようとして止めた。

まさか会長や春とキスをしたなんてのも言えないしそのせいで京様派の反感をかったかもしれないなんてもっといえない。

「面白かったよ。ま・・・色々あったけど。」

だから色々でカモフラージュした。

本当に色々あったのだ。

「メール、大丈夫でしたか?」

「え?」

カモフラージュは必要なかったみたいです。

「あー。もしかして桐生さんにもいっちゃったんだ・・・。うん。意外と平気だった。みんな気にしてくれたしさ。」

「そうですか・・・。あの・・・、」

桐生さんは言おうか言わないか迷ってるようだった。

「何?いいよ言って。」

「亮君は青木君をお付き合いを?」

「・・・やっぱ、アレ見たらそうなるかー。付き合ってないよ。うーん・・・何て言えばいいかな・・・。」

亮はかいつまんで自分の気持ちを含めながら何があったのか説明した。

「だから・・・そういうつもりじゃなかったんだ。おかしいって言う気持ちは分かるんだけどさ・・・。」

「そうですか。そんな事が。」

桐生さんは労わる様に言葉をかけてくれた。

「だけど別にいいんだ。明日から夏休みだし!」

窓の外の景色は懐かしく思えた。

通り過ぎる家の色もコンビニも。

長く続く塀は自分の家だ。

もう慣れたけど最初は実感がわかなかった。

今は帰ってきたって感情が素直に湧き上がった。

「あ。桐生さんにお土産買って来たんだ。」

自分の鞄に入っている袋を取り出す。


:::::::::::


「・・・気に入ってくれるか分からないけど。」

ホテルの近くにあったショッピング街はブランドのお店ばかりだった。

勿論そんな所で買えるはず無いから俺は一番近くの俺でも買える様な店に行った。

ホテルから出るまでが大変だったがそれは春や楓の協力でどうにかなった。

まぁ・・・タウンページでタクシーとか呼んだ訳ですが。

外国の車の中に黄色のタクシー一台ってのも目立ったと思うんだけどなんとか見つからずに行けたわけですよ。

そんで買ってきたのが

「お酒ですか?」

桐生さんは車庫に車を入れると渡された箱の中身を見た。

「うん!おいしいって現地の人言ってた!」

本当は20歳未満買っちゃいけないんだけどお土産にしたいっていったら売ってくれた。

いいおっちゃんだったよ。

「あ・・・もしかして桐生さんお酒は飲まない人?」

「いいえ、そんな事ないですが・・・私が頂いていいんですか?」

「うん!桐生さんのために買って来たんだ。いっつもいっつもありがとうございます。」

桐生さんはびっくりした表情だったかほわりと笑うと頭を下げた。

「ありがとうございます。大事に飲ませて頂きますね。」

「うん。」

桐生さんにも荷物を持ってもらって篠宮家の玄関を上がった。








「杏那ぁぁぁ〜!!!」

「あー。」

抱き上げて抱きしめる。

可愛い可愛い俺の妹っ。

「亮ちゃんお帰りなさい。」

「ただ今ー。なぁ、杏那大きくなってねぇ?」

「そうかしら?」

お袋は首をかしげたが絶対成長している。

「何か喋った?俺のいない時になんかした?」

「何もなかったわよ。亮ちゃんが行った後泣き止まなくて大変だったけど。」

「ごめんな杏那〜。お土産持ってきたから許して。」

杏那へのお土産は海岸で拾った貝殻。

そっと小さい手に握らせてやれば杏那はきゃきゃと笑った。

「可愛いっっ!」

可愛すぎるっっ!

「亮ちゃんママにはお土産ないの?」


::::::::::::::


「あるよ、その袋に入ってるから笹かまだけど。」

「まぁ、おいしそう。そうそう、おじいちゃんとおばあちゃんからお小遣い預かってたんだけどうっかりしてて・・・はい。」

え?今更?

渡された封筒の中身を見て絶句。

「じいちゃんと・・・ばあちゃんは?」

「多分おばあちゃんはお部屋にいらっしゃると思うけど?」

「行ってくる!」

ばあちゃんに買ったお土産持って廊下を走る。

いや、小走りだけど。

襖の前で一息ついてゆっくり開けた。

「ばあちゃん、今大丈夫?」

「あら、亮くんお帰りなさい。」

ばあちゃんは深緑の着物を着て花を生けていた。

「あ。うん、ただ今・・・コレお土産。」

「わざわざ買ってきてくれたの?ありがとうね。」

皺があるけどスッと長くて綺麗な指が袋にかけられた。

「お話も聞かせてほしいわ。亮くんは御抹茶飲めましたっけね?」

生けていた花を置いて腰を上げようとするばあちゃんを制した。

「やめなくていいよ。あの・・・これ。」

先ほど貰った封筒を差し出す。

ばあちゃんはパチとそれを見た後に俺の顔を見た。

「こんなに貰えない。だから返すね。」

「・・・・・・。」

「あ!勿論気持ちはありがたいんだけど・・・このお金は自分の為に使えばいいと思う!」

「ねぇ、亮君?今年の夏休みは何処かにでかけましょうか?」

「え?」

「ふふ・・・亮介と杏里さんから聞いてるのよ貴方の事。・・・ごめんなさいね、亮くんには辛い思いさせちゃったわね。」

「え?いや・・・辛い思いって・・・。」


:::::::::


「長期休業はアルバイトをやっていたんでしょう?このお土産もそのお金なのかしら?」

「あ・・・そうだけど。」

確かに今回の林間学校に持ってったのは去年に貯めたお金だ。

「亮くんが働いたお金で私たちのために買ってくれたのね。」

優しい笑顔でばあちゃんはお土産に触れた。

「ねぇ、私とおじいちゃんは今まで亮くんに何も出来なかったの、だからそのお金はこれまでの分なのよ。」

それなら尚更貰えない。

「そんなのいいよ。これまでとかこれからとか・・・。」

別にお金が欲しい訳じゃないんだ。

篠宮家に、ばあちゃんとじいちゃんが俺たちを呼んでくれたお陰で杏那の世話はお袋が出来る。

お袋が働かなくてもよくなった。

夜になれば親父だって帰ってくる。

暖かいご飯をみんなで囲んで食べられる。

休みの日には遊びにも行ける。

みんな笑顔ですごせる。

俺が欲しかったものがちゃんとある。

杏那が俺の理想の生活にちゃんといる。

それだけで十分だ。

「クリスマスプレゼント、お年玉、子供の日、お盆・・・こんな日に子供は祖父や祖母からお小遣いを貰うのよ。これは16年間分のお小遣いなの。ね、おばあちゃんにも亮くんにお小遣いを渡させて。」

「・・・・・・。」

「ね?そして今年はアルバイトはしないでもっとおばあちゃん達といて頂戴?」

スッと再び封筒を押し出される。

俺は黙ってそれを手に取った。

「・・・ありがとうございます。」

正座をして頭を畳につける。
作品名:RED+DATE+BOOK005 作家名:笹色紅