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RED+DATE+BOOK02

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風を切って只走る、壁にタッチしシューズがキュィっとなってターンをして再び春の所目指して走る。

壁に追突しそうになりながら止まった。


「ハァハァ・・・何秒だった?」

「32秒80。」

「ん。じゃあもう一回よろしく。」

俺は肩で息をしながらもう一度スタートを切った。

次のタイムが33秒50、次は34秒20、そして

「35秒50。」

俺は上手く話せないほどぜいぜいと息を吐きながらストップウォッチを受け取った。

「ありがとな・・・ハァハァ・・・あとはもういいよ。」

そしてふらふらとモップが置いてある場所に行く。

モップを杖にしながら体育館の隅に移動する。

すると他の部員達も同じようにモップを手に並び始めた。

「えっ?えっ?」

「じゃあ、行くよー。」

聡先輩の合図で皆一斉に歩き始めた。

一人でやると何十往復のスペースは直ぐに終わってしまった。

体育館を出て部室までの道をぞろぞろと歩く。

「で、草は何やっとったん?」

「草って言うのやめたら教えます。」

こんにゃろう。草なんてあだ名つけられてたまるかっつーの。

「・・・亮。」

嫌々名前を呼ぶ宮先輩。

何で本名呼ぶのは嫌なんだよ?

「部活後に毎日やってるんです。体育館対角線走って、最初のタイムから2秒遅れたらおしまい。」

「2秒?」

「四捨五入して2秒です。だからそれ以前のタイムまではずっと続けるんですよ。」

「部活後に?」

「はい。あっちでは、和哉先輩も付き合ってくれましたよ。今日の先輩達みたいに。」

「ふーん。亮の持久力の秘密はここにもあったんだ。」

「俺スタミナ無かったんで。」

そんなたわいも無い話をしながら部室に入る。

俺は机に置いてあった携帯を取り時間を見た。

「8時30分・・・?」

・・・・・・・・・・・。

うっそーーーー!!!!????

えっえっえっ!?

8時30分で朝じゃありませんよね!!!

俺・・・ついうっかりバレーに夢中になって全然時間の事なんか気にしてなかった!!

そういやぁギャラリーの声すら聞いてなかったわ。

始まる前はあんなに耳障りだったのに・・・。

それでも桐生さんからはメールも着信も無い。

部活の終わる頃に来てくれるって言ってたけど・・・それって時間知ってるって事だよな。

「亮はこれからホールで食べるの?」

「へ?」


「一応部長だからね、亮の部屋番号も知っておきたいんだけど。」

「部屋番号って・・・?」

俺が首を傾げていると春が説明してくれた。

「部長、亮は寮じゃないです。」

うわ。春君いまのシャレ?

俺の名前のシャレ一個出来た。

亮は寮じゃない。

当たり前だっつーの。

ってか寮なんてあんのかここには!?

「寮じゃあらへんのか?通りであんま見ないわけや。」

「・・・皆、寮なのか?」

「部活やってる人は遅くなるから大体が寮なんだよ。でも亮は・・・。」

「俺自宅から通ってるんです!」

「そうなんだ。じゃあ、早く帰ったほうがいいね。」

そうなの。そうなんだけど机の上において置いた俺の制服が見当たらない。

「亮・・・制服無いの?」

春が首を傾げて机を見る、それに俺は頷いた。

「下にでも落ちたのかな~?」

そう言って机の下を見るとダンボールの中に見慣れた緑の制服がチラリと見える!

「あ!あった。」

それを机の下から引きずり出した。

「えっ?」

中に入っていた物は俺の制服。

俺は恐る恐るその中の布を取り出した。

ハラリハラリと手から舞い落ちるそれら。

俺の制服は無残にもバラバラに引きちぎられていたのだ。

「なんだ・・・これ?」

目の前にあるものは俺の制服なはず。

だけどソレは既に原型を留めていない。

はさみか何かでビリビリに切られ、裂かれている。

俺はダンボールをひっくり返してそれを全て床に出した。

チラチラと見えるピンク色の布は桜先輩から貰ったネクタイ。

ネクタイなんて形は既にしてなくて破かれている。

じゃあこの緑の布は・・・。

ヒラリと舞い降りた白い一片。

それを震える手で拾い上げる。

それには[大月]と書かれていた。

「・・・・嘘だろ?」

シンと部室の中が静まり返っていた。

そして俺は見つけてしまったのだ。

一番大きなパーツに書いてあった言葉を。

「藤堂様に近づくな・・・。加賀様に近づくな・・・。」

他のパーツも拾い上げて見てみる。

「綾瀬様に近づくな・・・青木様に近づくな・・・。じゅんぺーのも・・・。」

そして

「聡先輩と宮先輩のもだ。」

これは何なのだろう?

今俺の目の前にあるコレは一体何?

大切な宝物?

違う。

違う。

違う。

眼の前が真っ暗になった。








「・・・う・・・りょ・・・亮!!!」

ハッとした。

何人かが俺を覗き込んでいた。

「え・・・っと。」

目の前にいる男は誰だっけ?

あ。

春・・・青木春だ。

「は・・・る・・・。」

俺は床にぺたりと座り込みながら布キレを握り締めていた。

「大丈夫かい?」

この人は、部長。

バレー部部長の福野聡先輩。

少し飛んだ記憶は洪水のように流れ込んできて今の状況を呼び戻した。

「だい・・・じょうぶです。」

果して声がちゃんと出ているのかも分からないがコクリと頷いた。

「片付けなきゃ・・・。」

俺が散らかした布片を震える手でダンボールの中に戻して行く。

春達はその光景を悲痛な目で見ていた。

「あ・・・れ?」

亮は一片も残らず集めようと机の下を見た。

其処には四角くたたんである布が。

青のストライプが入ったハンカチ。

コレは・・・。

昨日いじめられてた子に渡した亮のハンカチだった。

「っ・・・。」

息が詰まった。

水の中みたいだ。

肺に空気ではなく水が溢れる。

「はっ・・・。」

胸が痛い。

ズキリと息を吸い込む度に杭で打たれたような感覚がする。

「亮・・・亮大丈夫?」

春が俺の腕を掴む。

その強い声にもう一度引き戻された。

「平気・・・だ。」

どうにか不器用に再び呼吸をした。

平気だ。

平気だ。

平気だから。

お願い、平気なふりを続けて。

「俺このまま帰ります。ダンボール借りてっていいですか?」

震える足を叱咤してよろりと立ち上がる。

春が半そでのシャツの上から俺のウィンドブレーカーをかけてくれた。

運動してからそんなに時間は経っていないのに全身が水びたしになったように寒かった。

ドクリドクリとやけに大きく聞こえる心臓は血液ではなく冷水を運んでいるような錯覚を覚えた。

「亮を送ります。」

春の申し出に俺は断る気力も無いまま部室を後にした。

ふらふらとする俺を支えながら歩いてくれる春。

長い長い校門までの道には街灯が煌々と足元を照らしてくれていたのに俺には真っ暗にしか思えなかっ

た。

一歩間違えたら足を踏み外して真っ逆さまに落ちてしまいそう。

作品名:RED+DATE+BOOK02 作家名:笹色紅