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猫になって歩けば棒に当たる?

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 よし、これでいいや。これを虎子望さんの机に忍ばせておこう。明後日には心の準備もできてるだろう。机に手紙を入れることに成功した僕は日も落ちて暗くなった教室を後にした。

 待ちに待った金曜日。僕は屋上の貯水タンクによじ登って夕焼けを眺めていた。なんで手紙なんて出しちまったんだろう。全然心の準備できてねーや。もう少し先に延ばしとけばよかった。
 夕方の冷たい風が僕の顔をうち、寒さに目から涙がでてきた。いや、寒さのせいだけではないのかもしれない。
 鼻から流れ落ちる水をティッシュで拭っていると、油の切れて重くなった屋上への扉がギシギシ動く音がした。
 やばいよぉ。マジで来たじゃないか。来ないでくれる事も願ったんだが、虎子望さんのあの綺麗な性格ならこういう頼みは興味が無くても話だけは聞いてそうだからなあ。
 寒さでかじかんだ身体を起したところで彼女と目があった。
「あ」
「あ」
 少し驚いた顔をした虎子望さんの顔もまた可愛かった。僕は笑顔を作ろうと努めたがうまく笑えなかった。
「こんにちは」
「こんにちは。手紙をくださったのは錫木君ですか?」
「ええ、そうです……」
「……」
 僕の言葉の後妙な沈黙があった。何かしゃべらなければ。
「あの、あのですね。この前はありがとうございました。わざわざお見舞いに来てくれて。とてもうれしかったです」
「いいえ、私もあの日は時間を忘れて話ができて楽しかったです」
 マジかよ。やったー。そんなに楽しんでくれてたのか。
「それでお話というのは? そのことについては当日お礼を言われたと思うのですが……」
「いえ、今日はその話ではなくてですね……」
「はい」
「実は僕は虎子望さんのことが……」
「……」
 くそう。あの不思議そうな顔は絶対に演技だ。彼女は何度もこんな場面に遭遇しているはずだ。場数を踏んだ経験豊富な人間なはずだ。だから僕の言うことなんかもうお見通しなんだろう。
 くそう。そんな目で見ないでくれ、言う、言うからもう少し待ってくれ。
「僕は僕は……君のことが好きだ。恋人になってくれませんか?」
 言えた。言えたぞ僕。言えたよな? 本当にこの声は届いたのか? 答えはどうであれ、これで僕は……
「えっと、気持ちは嬉しいんだけど」
 けど? この後に来る言葉はもう決まってるんだろ。
『私は君のこと好きじゃないから』だろ。
「私今は『あの猫』のことが頭から離れないの……」
「ついこの間までいたうちの白い猫がどこかへ行っちゃったの。今日もこれから探しに行く予定なんです。本当にごめんなさい」
 ペコっと頭を下げ、ぴょんと跳ね上がるポニーテールを茫然と目で追いながら屋上を後にする虎子望さんを見送った。
 目は焦点が失われているが頭はフル回転で回りまくっていた。
 白い猫? この前いなくなった? それってもしかして……
「猫神様ーー。どうかどうか僕をまた猫に戻してくださーーーーーーーい」
 日の暮れかかった学校の屋上から僕の叫びが、カラスの物悲しい鳴き声と反響して響き渡っていった。