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猫になって歩けば棒に当たる?

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「シャアアアアアアアアアアアアアアアア! 貴様みたいなのが神だからこの猫の社会は腐っていくんだよ! テメ―がぐうすか寝てるうちに何匹の俺ら野良猫の命が失われているのか知ってんのかおい! 人間から食いもんもらえる奴はそりゃいいよな。なにもしなくたって時間がくれば飯が食える。食って寝てゴロゴロしてても生きていけるんだからな!」
 叫びながら彼の瞳孔はさらに広がり、完全な円形を描きまるで紅い満月がそこにあるような錯覚すら覚えた。彼の怒気はさらに膨れ上がる。
「だがそんなのは一握りの野郎だけだ! その日一日だけじゃねえ、何日も腹になにも入れられなくて死んでいく奴の気持ちがお前にはわからないだろう。人間のものを必死で奪い殺されそうになりながらでも食いもんを手に入れなければならない奴の苦労がわからないだろう。なぜお前はそんな猫を助けてやらねえんだよ! 神だろ! 何でもできんだろうがよ!」
「おぬしはなにか勘違いをしているようだニャ。わしは神だが全知全能ではないニャ。この世界を作ったのもわしじゃない。わしはただこの猫の世界を守っていくという使命を与えられているにすぎない中間管理職のようなものだよ」
「守る? 貴様がなにを守ってるっていうんだ!」
「世界の秩序かの……。この世界がうまく回るように守っているのだよ」
「うまく回る? 差別され疎まれ踏みにじられて暮らしている俺たちがいるのにうまく回しているつもりか? これが秩序だっていうのか?」
「そうだ」
 二匹の猫が真っ正面から視線をぶつける。ミケ様の目も燃えるような強い意志がこもっている。とても寝起きとは思えない。オオグロ様が姿を見せてから本当はもう起きていたのだろう。
「そんな不平等な秩序は俺がぶっ壊す! だから俺の力を返してもらう」
「それはできない。この力はこの世界にあってはならないもの。だがなぜこんなものをおぬしが持っているのだ? わしにはそこがわからないのだ……」
「シャハハ。貴様にもわからないことがあるか。笑えるな」
「だからわしも全知全能ではないといっただろうが」
「そういやそうだっけな。んじゃ神様に俺が教えてやるよ。その俺のためにあるような素晴らしい力を与えてくださった、お前じゃない神様のことをね!」
 得意げに裂けた口を歪ませて笑うオオグロ様。考えていたことではあったのだけれどあまり好ましくない展開だったことはミケ様のつらそうな顔で一目瞭然だった。
「この力をくれた主のことを話すには俺の昔話から付き合ってもらう必要がある」
 そう言うとオオグロ様は器用にあぐらをかいて座って話し始めた。

 俺はもともと人間に飼い猫と呼ばれる猫だった。が、それはほんの数日のことだけで生まれて間もなく俺は捨て猫になった。もともとそんなに裕福な家ではなく猫も本当は増えてほしいと願ってなどいなかったのだろう。俺は三匹の兄弟とともに安っぽい輸入物のクッキーの缶に入れられて捨てられた。
 それは缶が凍りつく程寒い冬のことだ。コンクリートの方がましなほど缶は余計に冷えやがる。人間がわざと俺らがさっさと死ぬように仕向けたものなのかは分からないが、とてもじゃないがそこには居られなかった。俺ら四匹は生きるために暖かい所を探してさまよった。数回飲んだ母親の温まるミルクの味などすぐに忘れてしまった。俺らが飲めたのは口が水とくっついてしまうかと思うほど冷えた川の水くらいだったが飲めるものがあるだけまだましだった。
 食べ物なんてまともなものなど食べることは叶わないから俺らはみんな気持ち悪いほどがりがりで一匹は数日程で死んじまった。
 後に残った俺ら三匹ももうほとんど動けなくなってどっかの住宅街に捨ててあった段ボールで三匹身を寄せ合って互いを温めか細い命を必死につなぎ合わせようとしていた。あの頃の記憶は今も苦痛としてはっきりと思い出せる。苦行の日々だった。
 だがある時そこに通りかかった人間がいた。俺達にとってはただの人間じゃなかった。
 まだ幼さの残る顔立ちをした少女だ。彼女は俺ら三匹を見てすぐに鞄をごそごそと漁ってなにかを取り出したかと思うと、目に眩しい程の赤いフラーを俺らにかぶせてくれた。
「こんなに痩せちゃって、しかも寒そうで見てるこっちが凍えてきちゃうよ。このマフラー私には合わないから君らにあげようね。あと……」
 マフラーを俺らにしっかり巻いた後、また鞄をごそごそさせていた。
「今はこんなものしかないや。猫ってパンでも食べれるよね? って聞くまでもないか」
 俺らは食いものの匂いが目の前に置かれるやいなやみんな飛びかかってかぶりついていた。仲が悪いわけじゃないが俺らは三匹とも必死で自分がより多く生きるためにパンを確保しようとした。そんな様子を見かねた少女は争う俺らをひきはがしパンを取り上げてしまった。
「こらこら、喧嘩はダメよ。これをこうしてちゃんと三個にわけないとダメだったみたいだね」
 三つに分けられたパンをそれぞれの目の前に置き、よしっと呟く少女の前で俺らはまた互いのパンを食おうと争った。
「コラー! なんで君らは仲良く食べられんのかね。そんな悪い子たちはみんなあげませ〜ん」
 もみくちゃにされた三つのパンをまた取り上げながら少女は言う。食べ物を取り上げられた俺らはしゅんと身体を丸めてはいたが皆パンに熱い視線を向けていた。
「まったく仲がいいんだか悪いんだか。とりあえずみんなお腹すいてるんでしょ? だったら最初はみんなで分け合って食べなきゃダメだよ」
 みんな彼女が言っていることがわからず、いいからそのパンをよこせとニャアニャアと鳴いていた。それに何と勘違いしたのかうんうんとうなずいて少女は一匹ずつにパンを与えていった。
 それを他の奴は黙って見ているはずもなく横取りしようとしたが、少女が一匹ずつ抱いて丁寧にパンを分け与えていたので結局少女が与えてくれた分しかパンを腹に入れることは叶わなかった。
「あっと、もうこんな時間だ! それじゃあね、また来るから寒さになんて負けちゃダメだよ!」
 少女は腕の光るものをちらりと見るとそう言ってこの場を離れていった。俺らはどうにか食事ができたことに満足し、新たに得た温もりとともに眠りに落ちていった。

「めでたしめでたし」
「……なに勝手に終わらせようとしてんだよ! これじゃただのいい話で終わりじゃねーか」
「え? 違うのかニャ。いい子に出会ってよかったよかった。で終わりでいいじゃないかその方がおぬしも幸せだろう?」
「これで終ったら今の俺が出来上がらないだろうが! まだ肝心の混沌神が出てこないだろうがよ!」
「混沌神? それがおぬしに変な力をあたえた神か」
「おっと口が滑っちまった。お前がくだらない茶々入れるから話の順序がぐちゃぐちゃになっちまっただろうがよ」
「えー,だってすんごく長くなりそうでわしそろそろ飽きたからもうオチでいいんだけど――って、なにするんだニャ、センプス」
「だってあまりにも空気を読めなさ過ぎて、こっちがイライラしてきましたのでつい手が出てしまいましたわ。申し訳ありません、ミケ様」
「ぜんっぜん申し訳なさそうじゃないんだけど……」