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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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海人の宝

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「あなたは、この海で育ったんでしょう。この海があるからこそ今があるのでしょう。自分の子供にも残したいと思わないの。私はその一心でここに座り込んでいるのよ」
 すると、男の表情は突然緩み、顔を真っ赤にして涙を流し始めた。こいつもウチナンチュウということか。
 龍司は、即座に眼を背けてしまった。こんな光景見たくない。何だか胸に突き刺さる。とりあえず、今日は何も考えず魚でも獲っていくか。

 その日の漁と出荷が終わった後、龍司は安次富の家で夕飯を食べて、夕暮れ時を基地寄りに面する通りの飲屋街に行った。飲屋街といっても2、3軒ほど店が並んでいるだけのひっそりとしたところだ。地元の人以外に米兵も時折立ち寄るという。
 その中の一軒「バー アップル」に入った。ビールでも飲もうと思った。安次富の家には泡盛しかなく飲み飽きていた。
 するとバーのカウンターに見覚えのある男が座っている。ヘインズ曹長だ。
 龍司はカウンターに近付き、バーのマスターに対し「このマッチョの方にビールを、俺の驕りで」と言った。
 マスターはビール瓶をヘインズに差し出す。ヘインズは龍司を見て言った。
「よう、嬉しいが、私は謙虚な男だから、金は払うよ」
 ヘインズは、にったりと笑みを浮かべる。
「折角だから、いろいろとチャット(お喋り)なんてできないかな。また出会えたのも奇遇だし」
と龍司が言うと、
「OK」と返す。
「演習のコース変更の件はありがとう。実に感謝している。だけどさ、新しい問題がまた起きたんだよな。多分、あんたも知っているだろうけど」
「滑走路のことか」
「ああ」
「いっとくが私は一兵員に過ぎない。命令でここに配属されたに過ぎない。はっきり言って私の知ったことじゃないとしか言えないな」
 実に素っ気ない反応で、表情がやや不機嫌になった。
「ビーチで反対運動している奴らをどう思う。フェンスにリボンなんか巻き付けているけど」
「ふん、それも知ったことじゃないね。勝手にやらせとけっと言ったところか」
「ここに来てどのくらいになるんだ」
「今年で三年目かな」
「沖縄では歓迎されていると感じるかい?」
「さあな、歓迎されていようがなかろうが、私や他の隊員にとってはどうでもいいことだ。それに沖縄に来る前に言われていたんだ。沖縄には基地の中に町があって、そこに人が住んでいるとな。この島が基地のようなもんだ。みんなそう思っている。じゃあな、マイ・フレンド」
と曹長はビール瓶をさっと飲み干し、カウンターに置いた。その側には、すでに飲んだウイスキーのボトルとグラスが置いてあった。。
 そして、カウンターに金を置き、巨体を立ち上げ、そそくさとバーから出ていった。

 龍司は思った。こん畜生。絶対に滑走路なんて造らせないぞ!

六月
 早朝、龍司は浜辺で煙草を吸いながら、キャンプ・ヘナコを眺めていた。丁度、軍用ヘリコプターの滑走路建設予定地となる浜辺と海だ。
 浜辺の基地との境界を区切るリボンと横断幕で覆われた有刺鉄線フェンスの前で立っていた。


まだ座り込みテント村には誰もいないたった一人の静かな時間だ。
 すると、背中にライフル銃を抱えた兵士がフェンス越しの龍司に近付いてきた。
 若くて小柄な青年だ。年齢は二十は超えていないだろう。見るからにあどけない。人種は白人かと思ったが、近付くにつれ黒人であるということが分かる褐色の肌と顔付きであった。白人と黒人の混血かと思われる。
 怒ったような顔付きで
「おい、近付くな」
と龍司に向かって言った。龍司はむかっとして
「ここは自由の国だ。俺がどこで何をしていようと勝手だろう」
と言い返した。龍司が、英語で言い返したのに相手は驚いた様子だが、すぐに
「ここは俺たちのビーチだ。お前は入ってくるな」
と突っかかる。その反応に龍司は仰天した。
「誰がお前らにあげたと言った。ここは日本国の領土だ」
「違う。日本政府がくれた土地だ」
 龍司は堪忍袋の緒が切れた状態になった。
「誰がくれたと言った? お前らにただで貸しているだけだよ。身の程知らずもいい加減にしろ。そんなにお前ら偉いのかよ。周囲に住んでいる人間に迷惑かけることばかりしてよ。おまけに思いやり予算とかいって、金まで貰っている。少しは礼儀正しくしたらどうなのか」
 怒鳴り声で英語をまくしたてた。怒った時ほど英語は話しやすいと龍司は思った。
 兵士は、龍司をにらみつけるような目つきで見る。何を言い返していいのか分からない。
 龍司は追撃するように、
「おい、腹が立つなら、俺にその銃を撃ってみろ。やれるものならやってみろ。それで新聞の見出しを飾れ」
と言い吸っていた煙草を投げつけた。
 兵士は何も言わず、その場を立ち去った。何だか悔しそうに後ろ姿を見せて去っていく。
 畜生、アメリカ人め。やな野郎だ。東京で働いていた時のアメリカ人上司のことを思い出した。ビジネスマンらしく外面はよかったが傲慢な奴だった。それにあの曹長もだ。アメリカ人とは、みんなあんな感じなのか。きっとそうに違いない。アメリカ人と付き合うのなら、今後注意しないとならない。できれば付き合いたくない奴らだ。
 早朝の体験でむしゃくちゃした気分で、いつものように漁に出て昼飯を食べようと浜辺の方に行った。テント村では、漁師や訪問客にボランティアが資金集めのため自分たちで作った弁当を販売するサービスを始めたそうだ。折角だから買ってやろうと思った。
すると、テントに金髪の女性が立っていて洋一たちに声をかけていた。英語で声をかけているのだが、やり取りは片言でしかできていない。どうしたんだろうと思って近付くと、その女性は目の覚めるような美人であった。


 背は高く、百七十五センチぐらいあるのだろうか、まるでモデルか女優のようなグラマーさだ。歳は龍司より少し若いぐらいだろうか。
 龍司は一瞬にして心を奪われた。そして、男の本能としてお近づきになりたい、でもって、ものにしたいという気分になった。
 いつもそんな感じで、数多くの女性をものにしてきた経歴を持つ。
 さっそく、彼女で英語で話しかけた。
「どうしました、ミス? 俺でできることなら何でもいたしますよ」
 すると、彼女は「よかった、英語が話せるのね。私はセーラ・フィールズ博士よ。ブルーピースの海洋生物学者だけど、仲間がここに来て落ち合うはずだったのだけど、まだ来てないようだから、代わりに誰かに海に連れてって貰うことを頼みたいの」
 海洋生物学の博士だと? ブルーピースというのは世界的に有名な環境保護団体だ。この美女がそんなお偉いさんだとは驚きだ。
「俺は龍司。ここで漁師をやっている。よければ海に連れてってやるよ」
と快く返した。こんな美女と海の上で二人きりになれるなんて、何とラッキーなことか。
 二人はさっそく漁港に向かった。彼女は、アメリカ人でフロリダ出身。昨日までブルーピース日本の本部のある東京にいたのだが、昨日、那覇空港に着き、今朝、スキューバダイビングの器具を持って車で辺奈古に来たという。これから、辺奈古の珊瑚礁をはじめとする海洋環境を見て回るという。
作品名:海人の宝 作家名:かいかた・まさし