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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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海人の宝

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 志波氏は自己紹介と挨拶をした後、自らのイラクでの取材活動をスライドを使い説明した。
 志葉氏が特に注目したのは、イラクの一般市民に対する被害である。非人道的な兵器が数多くイラクの地で使用され、主なものを挙げると白リン弾と劣化ウラン弾である。
 白リン弾とは、手榴弾、砲弾、爆弾の一種で、充填する白リンを大気中で自然燃焼させるものである。五千度の熱を出し、焼夷弾なので酸素がある限り燃え続け、攻撃目標だけでなく周囲数百メートルの広範囲に被害が広がり、かなり多くの一般市民が犠牲になっているのを知った。真っ赤に焼き尽くされた死体をいくつも見たことを語り、その死体を撮した写真を見せた。まるで天狗になったかのように真っ赤に皮膚が焼けただれ、悲痛の表情で死んでいったことが分かる。
 もう一つは劣化ウラン弾だ。これは劣化ウランを主原料とする合金を使用した弾丸であり少量でも極めて破壊能力の高い兵器として米軍が湾岸戦争時からイラクで使用していたものだ。兵器としての殺傷能力の高さもさることながら、爆発後、残された粉塵が空気中に放散し続け、それが、体に吸い込まれると放射線を出し続け、人体の細胞に異常な現象を引き起こす。それによる一般市民を含めた数多くの健康被害が報告されている。
 特に細胞分裂の著しい胎児・新生児・幼児への影響は深刻である。イラクでは、日本に比べ数十倍の確立で幼児が白血病にかかり、生まれてくる子供は早期に死ぬか奇形児であることが珍しくない。
 また、米兵たちが誤射または、むしゃくしゃして、民間人を殺したりすることがあり、その時に正当防衛にみせかけるため、自らが携帯するのとは別に余分な銃を持ち歩き、殺した民間人の死体の側に置き、それで正当防衛に見せかけることが横行しているという。ニュースで聞く「武装勢力を殺害した」というものの中には、そんな事例も多々含まれる。 
 講演の最後に志葉玲はこう締めくくった。
「アメリカでは政権が代わり、新大統領は、「戦争終了」を宣言して軍を撤退させているが、イラクの人々の苦難は終わらないし、アメリカの戦争責任が消えたわけでもありません。イラクでは少なくとも約十万人、最大で百万人超のイラク人が殺された上、今もイラク国民の約六分の一が難民となっています。アメリカは国をあげて戦争の検証をし、被害者の救済を行うべきでしょう。アメリカを支持した日本も同様です。私は断固、追及し続けます。イラクに本当の平和が来る時まで、アメリカやその従属国家が自らの誤りを検証し、反省した上で、しかるべき償いをする時まで」
 次に、常岡浩介氏が、アフガニスタンの現状について講演をした。

 九一一の報復として始まったアフガニスタンのタリバン政権への攻撃でタリバンは勢力を失ったと思われているが、ここにきてアメリカを後ろ盾とする新統治権力のカルザイ政権が、汚職の蔓延や治安維持の失敗などで統治能力を喪失しており、最近になってタリバンが勢力を盛り返し、既にアフガニスタン全域の八割から九割はタリバンの支配下におさまるほどに復活しているという。首都のカブールでさえ、大統領府や中心部は辛うじてカルザイ軍が掌握しているものの、数キロはずれると、そこは既にタリバンの支配地域になっているという。
 多くの人々が誤解しているのは、米軍がアフガニスタンの一般市民を巻き込んだ攻撃をしているから、アフガニスタンの人々に嫌われていると思われがちだが、アフガン人にとってタリバンも一般市民も同じであり、タリバンは、実際のところ、圧政を敷いていたが、治安や秩序を維持してきたので、人々には信頼されてきたという。米軍の攻撃は、無人機を使い自分たちは姿を見せないという卑怯な手段を取るので、そのことこそが反感を増す要因になっているという。
 アフガニスタンに限らず、中東のイスラム教徒にとって、イスラム教は、文化というよりも文明という位置づけがされており、西欧流の民主主義を根付かせようという発想は、最初から絵に描いた餅でしかない。アメリカは戦争だけでなく、政策において取り返しのつかない間違いを犯したと断言した。
 次に、映画「ワンショット・ワンキル」の上映となった。監督の藤本幸久氏が、挨拶をして、映画が戦場に送り込まれた若い海兵隊員の新兵訓練の様子を記録したものであると紹介した。約三ヶ月に及ぶ最初の訓練を受けたものが、沖縄を含めた海兵隊基地に配属させられるのだ。普段目にする海兵隊員というものがどんな訓練を受けてきた連中なのかを垣間見ることができる。
 映画の舞台はアメリカはサウスカロライナ州にある海兵隊員の新兵養成訓練所だ。深夜に訓練所の門をくぐり、最初にすることは、上官に怒鳴られながら、親に電話して、訓練中は、家族との接触は一切出来ないということを告げるのである。
 新兵たちはあどけない顔をした高校を卒業したばかりの若者ばかりだ。男子は丸坊主にさせられる。上官にどやされ、入隊後最初の四十八時間は不眠不休の状態におかれる。
 訓練では、毎日が耳元で怒鳴られ通しだ。そして、訓練所では、新兵たちは、自らを「私」と呼ぶことが許されない。「この新兵」という呼び方をしなければいけないのだ。つまり自らの人格を否定して命令に絶対服従する精神を植え付けるためである。
 また、「一撃一発」を意味する「ワンショット・ワンキル」という掛け声を上げ、人を殺すことを躊躇しない精神も身につけていく。人間は元来、人を殺せるようになっていない。その本能に反した精神を身につけていかないと一人前の軍人にはなれないのだ。
 映画が終わると、藤本氏が自らの取材体験などを含めて講演した。


 これが、沖縄に来る海兵隊員の実態なのだと。彼らの多くは愛国心から入隊するのではない。実際は家庭の経済状態が悪く、やも得ず志願するものが多い。徴兵制は今はないが、代わりに、貧民皆兵制という別の形の徴兵が行われている。それは、自由主義経済により貧困層を生み出す階級社会アメリカならではの徴兵制度であると。日本も、市場原理主義の導入によりそうなっていく恐れがあると警告した。
 近年の課題は、イラク撤退後、もう一つの戦場であり、ベトナム戦争よりも長引いているアフガニスタンでの戦闘をどう集結させるかである。タリバンの猛攻により米兵死者は急増中である。そして、その中には、戦死者として数えられない死亡件数があり、それも確実に増加しているのだ。何かというと、帰還した兵士による自殺である。信頼できる情報によれば公表されている戦死者の三倍はいるとみられる。また、自殺までに至らずとも帰還兵の四人に一人は心身症を患っている状態だという。しかし、軍隊では、苦しみを表に出さない訓練を受けさせられているためか、ある日、兆候を全く見せないまま、突然、自殺してしまうという事件が後を絶たない。
 戦争をする国家の苦悩である。自由と民主主義の国と思われがちだが、政治では軍需産業が強い影響力を持ち、情報統制さえされている。特に九一一の事件以来、その傾向は強まっている。なので、戦争反対を唱えたりするのも楽なことではない。もしかしたら、そんな国家の元に生きているアメリカの市民たちも戦争の犠牲者なのかもしれない。
作品名:海人の宝 作家名:かいかた・まさし