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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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海人の宝

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 もう一隻の船も作業船や大型ゴムボートとの対戦で海人の操縦テクニックを活かし、快勝という具合で妨害を続けていた。何しろ、沖合は浅瀬と比べると格段に波が高くなるので、その高い波に乗りながら操縦するのには特別なテクニックが必要になる。それは海人ならではのテクニックだとしかいいようがない。
 だが、作業船は三台あったため、三台目にはカヌーとゴムボートのみによる対戦なので、思ったほどうまくいっていないようだ。カヌーやゴムボートはどんどん転覆させられ、活動家たちは海面に落とされ、何度も泳ぎへとへとになる者が続出した。
 その内に、海中に杭が打ち込まれ、パイプによる櫓の組立が進んでいく様子だ。
 龍司は見ていられず、安次富に船を任せ、海に飛び込み、櫓の組立が行われている海中まで潜った。
 ダイバーたちがパイプをつなぎ合わせている。龍司が、その作業をしているダイバーの前に立ちはだかる。すると、後ろから別のダイバーが龍司の首をつかみ、その場から離そうとする。龍司は、ダイバーの腕をつかみ力一杯引っ張り上げはねのけると、得意のパンチをダイバーに加えた。ダイバーはレギュレーターが口から離れ混乱状態だ。すぐに浮上した。
 龍司も息切れしてきたので浮上した。活動家のゴムボートが来たので、すぐにそこに乗り上げた。
「大丈夫?」
と言う洋一が手を差し出し、引っ張り上げた。
「ここはやられそうだ。このままだと櫓が立ってしまう」
と悔しそうな表情で見る。他の二台は、作業が全然進んでいない分、この櫓は組み立て作業を進めている。カヌーやゴムボートでは、強力な大型ゴムボート相手には歯が立たない状態だ。
 その日の夕刻近く、単菅櫓が一台出来上がってしまった。三台の作業船で三台作ろうという計画だったのだろうが、できたのは一台だけだったので、妨害の成果はあったのだろうが、しかし、この一台だけでも掘削作業は開始できる。何とか阻止しないとならない。
 よし、明日からは、あの櫓に座り込みをするぞ、と活動家と海人たちは決意した。

 翌日、早朝、活動家と海人たちは、漁船一隻とカヌー数隻を櫓の周りに浮かせ、同時に十人ぐらいは櫓の海面上の足場にどっしり座り込むことにした。その座り込みメンバーに安次富とその息子の洋一、龍司がいる。
 ジャングルジムのようなパイプで形作られた櫓の足場用板にところ狭しと十人もの人間が座り込む。
 作業船と海上保安庁の大型ゴムボートがやってくる。漁船一隻とカヌー隊は、すぐさまけ散らかされた。
 だが、この日の主戦場は櫓だ。そのために人員とエネルギーをこの場所に集中させたのだ。「さあ、来い」と皆、息巻いた。
 そして、彼らはやって来た。作業船から掘削用の機械を櫓の屋根の中に置こうとしている。そのためにも、足場にいる龍司たちを追い払わなければならない。
 ヘルメットと救命胴衣と黒のウエットスーツを身につけた男たちが足場に踏み込んできた。さっそく、座り込みメンバーをどしどし海に投げ落としていく。小柄な女性は、すぐに落とされた。三十分ほどで座り込みメンバーは半分になった。
 洋一も海面に落とされた。必死に足場に上がろうとするが、それを足裏で押さえ、また引き落とす。何度もそんな状態が続くと疲れてしまい海面でもがき、仕方なく漁船に泳いでいき一時休をしのぐ。間違っても敵側のゴムボートや船に拾い上げられてしまってはたまらない。
 龍司と安次富は、体を引っ張られながらも粘って座っている。龍司は自分を引きずり降ろそうとする連中がつかむ胴体と腕に力を入れ、相手がつられて力んだ瞬間を利用して絶妙のタイミングで力を抜き、それと同時に体を反転、それにより、連中のバランスを崩させ海中に落とすという高度な格闘を繰り広げた。外見上、相手に暴行を加えていない格闘だ。
 だが、安次富は、何度も引っ張られ体がへとへとになっている様子だ。しかし、それでも粘る。すると、黒いウエットスーツの男は安次富の首を絞め始めた。安次富は「ぐ、ぐう」と言う。
 こりゃ、とんでもないぞっと思った龍司は、立ち上がりその首を絞める男の腹に蹴りを入れた。すると、その男は安次富の首をつかんだまま一緒に海面に投げ出された。
 海面で安次富が息をしようともがいている。首を締め続けられた状態から平静を保とうと必死だ。すると、さっき首を絞めていた男が、今度は安次富の頭を押さえ海中に沈み込ませようとする。
 殺す気か、と危険を察知した龍司は海に飛び込み、安次富を押さえつける男に近付き、得意のパンチを食らわした。水面でのパンチは得意技だ。大学時代、そんなことをしたために水球部を退部にさせられた。
 男は、一気に力を失い、意識もうろうとなり、海面に浮かぶだけの状態になった。
 安次富は、息をふうふうさせながら、正気を取り戻そうとしている。だが、ショックが強かったらしい。顔を真っ赤にしてかなり苦しい状態だ。
 これはまずい。急いで仲間の漁船に乗ろうと思った。すると、目の前に海保のゴムボートが止まった。男が一人手を差しのべる。見ていられなくなったのか。危ない状態なので急いで海面から出ないとと思い、手を伸ばし、安次富も一緒に引っ張り上げゴムボートに乗った。
 とりあえず、助かったと思った。安次富もすぐに落ち着きを取り戻した。同時に龍司に殴られ救命胴衣で浮かんでいるだけの状態になった男も海面から引き上げられた。
 龍司と安次富を海保の男が見つめ言った。
「お前らを威力業務妨害で逮捕する」
 龍司は仰天した。即座に二人に手錠がかけられた。そして、海保の男は龍司に向かって怒鳴り声で言った。
「お前はそれに加えて公務執行妨害と暴行罪だ」
「何だと、あれは正当防衛だぞ」
 龍司は言い返したが、奴らは無視して、ボートを陸に向けて進ませた。最初から、これをすることが目的だったのではないかと疑う。


 数時間後、龍司と安次富は同じ留置場内のベッドに寝そべっていた。
 寝れた服を着替え、取り調べを受けたが、必死で龍司と安次富は正当防衛を訴えた。どうせ、奴らのシナリオが決まっているんだろうが、言いたいことは言わないといけない。
 警官は、作業の妨害を目的で座り込んだ龍司たちを引っ張り排除しようとしていたところ、それに対し悪意をもって暴行を加えた、という海保が主張する説明が正しく、龍司の行為は正当防衛に当たらず、海保が安次富に首を絞めるなどの暴行を加えたという事実はないのだと龍司に告げた。
 これから、どれだけ拘置されるのだろうか。警察に逮捕されると、たいてい数ヶ月、拘置されることになるという。この間、漁に出られない。生活はどうなっていくのか。だが、何よりも、この逮捕を口実に基地建設反対の活動をテロ活動と同等の行為だとレッテルを貼り反対運動そのものに弾圧を加えていくのではないか。連中にまんまと乗せられたということか。
「すまないさな、こんなことに巻き込ませてしまって」
と安次富が龍司に言った。
「いいさ、こんなことになるのも覚悟のうちだったんだ。それに、安次富さんは俺をこんなことに巻き込ませるつもりで俺を海人にさせたんだろう。どうして、俺のような奴が海人になれたのか、その意味がしっかりと分かった。悔いはないよ」
作品名:海人の宝 作家名:かいかた・まさし