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まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
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桜の下で - under the tree -

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 申し訳なさを顔いっぱいに表して謝られて、逆に後ろめたくなる。別に彼女が謝る必要はないのに、と本気で思っていたから。これが他の知り合いが相手なら、友達を心配してとはいえ大きなお世話だなと考えそうではあるのだが。
 その時、また風が強く吹き付けてきた。前髪を押さえた彼女が視線をやった方向を、なにげなく自分も見る。
 すぐ近くにあるのは桜の樹。今年は寒い時期が長かったからまだ蕾の状態だけれど、どれもがほころぶ時期を待ってふくらんでいる。
 これが咲く頃には入学式だろうな、と思ったら、彼女も同じことを考えたのか「そういえば高校、県立だよね」と尋ねてきた。
 「ん、そうだけど」
 私立を受けてそちらに行く生徒もいるが、自分も含めて進学者が一番多いのは、市内の高台にある公立高校である。
 「私も一緒なんだ。もし同じクラスになったら、よろしくね」
 そう言って、ごく自然な仕草で彼女は手を差し出してくる。……少しの間、ぽかんとその手を見つめてしまった。
 「……あ、こちらこそ」
 意図せず硬くなった受け答えに、彼女が口の端を上げて微笑む。自然きわまりない笑顔につられて、自分もやっと笑えた。多少は遠慮しつつ、差し出された手を取って軽く握手を交わす。
 女子の手を握った経験はあるけれど、彼女に対しては初めてだった。そのせいか、手のやわらかさやほんのりした温かさがやけに新鮮で、一瞬だけ、彼女自身に初めて会ったような心地さえ覚えたのだった。


                             —終—