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The El Andile Vision 第5章 Ep. 1

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 その背後で、人々の嗚咽に咽ぶ声が聞こえる。
「……ターナ……!ターナ、あんた……なんで、こんなことに……!」
 あれは――
 テリー・ヴァレルの声だ。
 ――ター……ナ……?
 イサスの耳が、その名に鋭く反応した。
 ――ターナが……どう……したんだ……?
 その途端、急に息ができないくらい、冷たい感覚が胸をいっぱいに満たした。
 ぞくっと凍りつくような思いが、震える心を鷲づかみにする。
 頭が割れるように痛んだ。
 イサスはわけもわからず、ただ漠然と胸に広がる恐怖に慄いた。
 ――ター……ナ……?
 ただ、恐ろしかった。
 なぜだろう。
 胸が締めつけられるような、この感覚……。
 ――何を……した……?
 悪寒がする。
 体の震えが止まらない。
 答えを知りたくない……そんな気がした。
(――俺は……彼女に……何を……したんだ……?)
 その瞬間、真っ赤な血の色が目の前を覆い込んでいくような気がして、彼は再び意識を失った。
 エルダーは、そんな彼の体を静かに抱え上げた。
「……おっ、おい、待てよ!あんた、イサスをどうするつもりだ……?」
 その様子を見て、レトウが慌てて呼びかけた。
「……このままでは、どうしようもない。彼の中にあの魔物が巣食っている限り……いつまた、先程のようなことになるかわからない。とにかく、彼は然るべき場所に私が連れて行く――」
「ちょ、ちょっと待て。そ、そんな……!」
 レトウが困惑したように言いかけたとき、
「……イサス!――逃がさねえぞ!」
 ティランが凄まじい形相で剣を振り上げ、突っ込んできた。
 すかさず、振り返ったエルダーの瞳がそれへ鋭い一閃を向けた。
 その瞬間、見えない固い壁がティランを弾き返した。
 彼はなすすべもなく、レトウのすぐ傍の地面に叩きつけられた。
 ティランが再び身を起こしたときには、エルダーの姿は遠くなっていた。
「……ち、畜生めっ……!」
 わめきながら、なおもその背に向けて剣を振りかざそうとするティランを、レトウが止めた。
「よせ、ティラン!」
(……そんなことをしても、仕方ねえ……!)
 ターナは……もう、戻ってはこねえんだ……!
 それに……
「イサスじゃねえ……」
 ターナを殺ったのは、あいつじゃねえんだ。
 あいつの体を乗っ取った、あの――あの……この世のものならぬ、悪魔のような生き物――!
 レトウはぞくりと身を震わせた。
 いったい、あいつはどこから……どうやって、やってきやがったんだ……。
 何だって、あんな恐ろしい奴を呼び寄せることになってしまったのか。
 イサスに何が起こったのか……。
 レトウの頭は未だ先程までの恐怖と混乱から立ち直れないでいた。
 見渡せば、あちらこちらに、まだ悪魔の所業の爪跡が生々しく残されている。
 血と硝煙の匂い。
 そこかしこに転がる数々の凄惨な遺骸。
 レトウは込み上がる吐き気を必死に抑えた。
 目の前を去り行くエルダー・ヴァーンの姿が白い霧の中に霞んで消えていく。
(何が起こっている……?)
 人知を越えた存在が――その未知なる力が、レトウを心の底から震撼させた。
 ふと、横でティランが激しく息を吐いた。
「……イサスだ」
 どうにも手出しができぬまま、ただ消えていく彼らの姿を、瞬きもせず睨みつけながら、ティランは吐き捨てるように呟いた。
「……イサスが、やったんだよ。あいつが、自分の手でターナを殺したんだ。それだけは、間違いねえ……!」
 ティランの瞳に暗い怒りの焔が渦巻くのを、レトウは何ともいえない気持ちで、ただ黙って見つめていた。


                                            (...To be continued)