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タマ与太郎
タマ与太郎
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君の名前

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第1章 ふざけんな!



池袋から出ている東武東上線の6つ目の駅に上板橋という駅がある。芝田武士(たけし)は、その上板橋に住み始めて1年が過ぎた。北海道の実家は和服や織物を取り扱う卸問屋を経営しており、金には不自由しない。2つ上の兄が会社を継ぐので、次男である武士は自由気ままなサラリーマン生活を送っている。親の援助を受け、1年前に上板橋駅から歩いて5分のところに2DKのマンションを買った。親のすねをかじっては小遣いまでもらい、会社が終わると池袋界隈で遊び呆ける生活が続いた。
 武士はある日、友人から合コンの誘いを受けた。今年31歳になった武士は、そろそろ本気で結婚を考え始めていた。二つ返事で誘いを受けた武士は、合コン相手の女性たちの勤める会社のことをインターネットで調べた。知名度はそれほどないものの上場している信頼のある会社であった。

 武士たちの合コンは、池袋のイタリアンレストランで行われた。近頃の女性は居酒屋などを嫌い、おしゃれなイタリアンやフレンチでの合コンを好むらしい。武士は一人の女性と意気投合した。彼女の名前は山本衣美華(いみか)。知的で可愛らしい女性だ。衣美華も武士のことが気に入った。少々遊び人な感じはしたものの、話の面白い武士に惹かれるものがあった。
「衣美華さんって可愛らしい名前ですよね」
「はい、私も気に入ってます。漢字も全てきれいな字だし」
メルアドを交換し、この次は二人で会おうと約束した。武士より二歳年下の衣美華にとって、三十路前のこの出会いに「結婚」の二文字が浮かばないはずがない。図らずも結婚願望という点で、ほぼ共通の認識を持つ二人にとって、親しくなるのにそう時間はかからなかった。

 二人は週末にデートを重ねるようになった。世の中の結婚年齢が高くなったとはいえ、二人にとっては恋愛を楽しむというよりは、結婚という目的に向かう作業のような気がしていた。お互いに「あせり」を感じていたことも事実だ。
 衣美華と付き合い始めて3カ月が経ったある日、武士はいつものとおり出勤のため家を出た。上板橋の駅でいつもの各駅停車を待っていた。駅名が書いてある表示板をぼんやり眺めていると、武士はニヤッと笑った。
 次の週末、二人はいつものように渋谷で待ち合わせた。武士はある決心をしていた。プロポーズである。付き合って3カ月は、ちょっと早いかなとも思った。ただ二人とも結婚願望があることはお互いに認めていた。それに加え、武士はある面白いことに気付いていた。衣美華も今日の武士はいつもに比べ少々神妙な面持ちであることを感じていた。

 夜景のきれいなレストランで武士は切り出した。衣美華は武士の言葉をひとつひとつかみしめながら聞いた。プロポーズされるというのは悪い気はしない。衣美華は良い気分だった。次の武士の言葉を聞くまでは。
「それにさあ、君が僕と結婚したら、芝田衣美華だろ」
「ええ、そうね」
「逆から読んでみてよ、”かみいたばし” だぜ」
「え?」
「僕と一緒に上板橋に暮らすことになれば、上板橋の芝田衣美華、回文だよ、すごいだろ、ハハハ」
「あのねえ」
衣美華は精いっぱい冷静になって続けた。
「それがプロポーズの理由?」
「そうだけど、何か?」
衣美華は心の中でつぶやいた。
「ふざけんな!」

作品名:君の名前 作家名:タマ与太郎